第31話 コスモ山浦

文字数 2,925文字

ゲイの友人である隆(たか)ちゃんが家に遊びにきている。

たかちゃんの本名は柳沢隆樹で35歳、高崎で車屋のメカニックを担当している。外見はかなりのイケメンで、ゲイの世界でもモテモテらしい。

たかちゃんの取り合いが起こる事もしばしばだとか。


たかちゃんとの出会いは婚活だ、たかちゃんはご両親や親戚が煩く偽装結婚の相手を探していて、私がそれに引っかかり実は婚約寸前までいった。

他の男の人とはどうしても結婚する気にならなかったけれど、たかちゃんだけは話も合うし、一緒にいて楽しい存在だったのでこの人と結婚するのだとおめでたく信じていた。

そして突然のカミングアウト。

やっぱり男の人と結婚したかったので縁談はお断りしたけれど、何故だかこうやって定期的に二人で遊んでいる。

というか今の遊び相手はたかちゃんしかいない。


五年前から同世代の友達が出産により遊べなくなり、それよりも下の年代の学校の自称山浦派の二人と遊んでいたが、二人の結婚により、その二人とも遊べなくなってしまったからだ。

年齢が上がるにつれて友達が減るというのは本当だ。



丸山さんが帰った二日後の火曜日の夜、たかちゃんと家でお好み焼きパーティーをしていた。

毎回たかちゃんの結構激しめな恋バナを聴くのを楽しみにしている。

「だから、それで前の彼氏に言ったの。今付き合ってる人と別れて欲しかったら、本気だっていう気持ち見せてって」

「そしたらどうなったの?!本気だってどうやって気持ち見せてくれたの?」

何故だか私は自分のことのように興奮している。

「そしたら、次のデートの時にレストランに行ったんだけど、元彼がお母さん同伴だったの。そういうの喜ぶ人もいるけど、私は求めてないから!」

「お母さんじゃなくて、もっと情熱的な何かが欲しいよね。もっとこう「愛してるよ」的な何かが来ると思った。あー残念」

たかちゃんの恋愛に自己投影していた私も心底残念がった。

たかちゃんは華麗な手捌きでお好み焼きをひっくり返した。

「亜紀もいつまでも人の恋愛にただ乗りして楽しんでないで、何かないの?」

実はその言葉を待っていた。

たかちゃんとは生活圏も友人も被っていないことがあり、何でも相談できる。

私は丸山さんとの今までのことを掻い摘んでたかちゃんに話した。

「丸山さんがすっごい、いい人で優しくてカッコ良かったまで聞いたけど、いつの間に会いに来てそんな事なってたの?」

たかちゃんは、お好み焼きを手際よく切り分けた。

「うん、私びっくりしちゃって付き合って下さいってどういうこと?!ってそれ以来ずっとパニック、今もパニック」

そう言うと私のスマホの着信音が鳴った。
スマホを見ると丸山さんからだった。

「今日は大阪の番組に出て今から東京に帰ります。大阪でロケ中にたこ焼きを食べました」

という文章と何故だか北澤さんが美味しそうにたこ焼きを食べている写真が添付されていた。

思わず「仲良し」と吹き出すとヒロちゃんが
「もしかして丸山さんから?」と聞いてきた。

「メール見たって他人に言わないでよ」

そう言いながらたかちゃんに見せるとたかちゃんは爆笑した。

「この間テレビ見てたら、仲悪い悪い言ってるけど一番仲良しって他の芸人さんに言われてた。本当だったんだね」

「ねぇ、おかしいね。こんな写真撮らせてくれるくらい仲良しなんだよね」


「凄いね、丸山さん毎日メールくれるの?」「ねぇ、暇なのかな」そう呟いた。

たかちゃんは鰹節をそれぞれのお皿に振りかけて、マヨネーズとソースをかけてくれた。

「付き合ってくれって言われて何て返事したの?」

「返事してないから、それにまだ本当のことかどうかもわかんないし」

「羨ましいな、たかはあの人凄くタイプなんだけど、結構いい顔立ちしてるよね」

「それはわかる。実際会ったら背も高いし顔立ちが整ってるし、面白いし、優しいしさ。ちょっと変だけど」

「亜紀、早速好きになってるし」
ひろちゃんは笑った。

「違うって、これは登山の日から思ってたことだから、付き合ってくれって言われてから思ってたことじゃないから」

さらにたかちゃんは笑った。「完全に最初から恋してたんだ」

「いやだから、恋とかじゃなくてファンみたいな気持ちっていうか、来年は抱かれたい男ランキングに丸山さんに投票します!みたいな」

「よくわかんないけど、付き合ってみなよ!何がそんなに引っかかってんの?」

「いや、だって。仮に丸山さんが本当に付き合ってくれって言ってたとして、これが私が20歳でモデルしてます。

だったらなんの躊躇もなく、何の疑いも持たず付き合うんだけど、私35歳で職業、小学校教師(かなり地味な方)なんだけど。どこに釣り合う要素あるの?」

「大丈夫!亜紀は顔が綺麗!スタイルがいい!年齢はアレだけど」

「まぁ、確かに綺麗ですねとか美人ですねとはたまに言われたことある。でも私今まで生きてきてそれで得したこと何にもないから!そして年齢は触れるな!」

「何かその言い回し、磨きかかってきたね」
たかちゃんがそう言ってお茶を注いでくれた。

「使いまわしてるから」

そう私は得意気に言った。



二人でお好み焼きを食べ始めた。たかちゃんは「美味しい」と声を上げた。

「本当たかちゃんの元々元彼から教えてもらったお好み焼きは最高だね」と私も賛辞を送った。

「いいなぁ、丸山さんにすぐ捨てられてもいいから付き合ってみたいな」
たかちゃんが自分のスマホで丸山さんを画像検索している。

「そうなんだよ、そこなんだよ。これで付き合いますって言って、すぐに捨てられたら私どれだけ落ち込むと思って」

「あー三年前のあの時だって、未練がましくずっと引きずってからね」

「あーもう煩いな!思い出さないで!

後さ、智と健のこともあるしさ、お父さんとお母さんのこともあるしさそういう意味でも丸山さんと付き合うのも無理かなって」

「普通の人はそこまで家庭の事情は気にしないんじゃない?亜紀が何故かいいお家のお坊ちゃんタイプにばっかり好かれるからね。

みんな好きだって言ってきても、家庭事情知って付き合う前にさーっと逃げてくんだって」

「そうかな?普通の人は何とも思わない?」

「思わないと思うけどね、だって国会議員の息子、(公設第一秘書兼跡取り息子)とかどこで知り合ってくんのよ!」

「あの人は本屋で」「そりゃあ、付き合えないって。後大病院の医者の跡取り息子やら、神社の息子やら、どうやって捕まえてきたの?」

「向こうから勝手に寄ってきたんだって。しかも捕まえる前に逃げられてるから」そういって二人で笑った。



「早く食べ終わって、ゲームしよう。オゾンで凄いゲーム見つけたから!」

そう言って「秋のイケメン狩り、10人ぶどう狩り梨狩りツアー」というゲームを見せると、たかちゃんは興奮した。

結局、たかちゃんに相談したのはいいものの結論は全く出せなかった。一体どうなるのだろう。



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