第14話 帽子岳の山頂で

文字数 2,037文字

翌日、放課後職員室に行こうと廊下を歩いていると、自称山浦派の司書の真美先生と二年生の担任の美雪先生に職員室隣の図書室に連れ込まれた。

二人に昨日のロケの話を聞かれると、私は意気揚々と話しだした。

「それがびっくりなんだけど、北澤さんじゃなくて。丸山さんが来てたんだよ。見たでしょ?それがすっごい優しいの。子供にも私にも優しいの」

真美先生は「えーっ!全然イメージない」といい美雪先生は「やっぱりあれはキャラなんですね」と笑った。

「最後に記念に写真送って下さい」って言われたから送ってあげたし、テレビで子供嫌いって言ってるけど、実は子供好きなんだって」

「えっ、それ亜紀先生の連絡先聞きたかったんじゃなくて?」

「そう言う妄想もしたいけどさ、私もう35だよ。ないでしょ?」

すると二人は「確かに」と声を揃えた。

「何で声揃うの」と言うと三人で笑った。

「本当に優しくて私が持ってたひろくんの荷物とか、持ちすぎですよって持ってくれるんだよ!」

「それ優しい!」「一気に好感度上がった」

私はあの登山を思い出してうっとりしていた。

「何か背も高いし、多分180位あると思う、顔もシュッとしてるし、凄く素敵だった。テレビであんな拗らせキャラやってるのに、実際は全然違うからさ、あれはモテるわ」

真美先生がいつもの下品なネタを言い出した。
「亜紀先生、向こうの連絡先知ってるんだったら、その綺麗な顔とエロい身体使えばワンチャンあるかもしれないですよ」

「だから、人から「綺麗ですね」とか言われることあるけど、私それで得したこと人生で一回もないから!」

美雪先生は「亜紀先生の得意技、自慢からの自虐」と笑った。

真美先生がニコニコしながら言った。

「亜紀先生に会うまで綺麗な人とかスタイルの良い人って羨ましいなって思ってたんです。きっと人生楽しいだろうなって。

でも亜紀先生に会ってどんだけ美人でスタイル良くても、それをうまく使う能力がなかったら無駄なんだなって悟りました」

「あーもう、うるさいわ」

そういうと二人は笑った。

「今年だって村長の息子の不倫の濡れ衣は着せられるわ、校庭のライン引き全部押し付けられるわ散々じゃないですか」

真美先生はそう言って手を叩いて笑った。

美雪先生が「あの奥さん何度スリッパ履いて下さいって注意しても学校にハイヒールのままあがってくるし」と呟いた。

「いくら私に男が居ないからって、不倫だけは死んでもしません!」

そう言うと、真美先生が「不倫だけはっていうか、普通の恋愛もしてないですよね」と、とうとう机に笑い崩れた。

悔しいけれど紛れもない事実だ。

「私だってショートバケーションみたいな恋がしてみたかった、愛してるといってくれないみたいに人から愛されてみたかった、とにかく誰でもいいから付き合ってみたかった」

と叫ぶと美雪先生が「例えに出すドラマが古い」と笑った。

「最近ドラマ見るのもめんどくさいんだよ」と言うと二人はまた笑った。

「じゃあ丸山さんにワンチャンチャレンジ」と二人が声を揃えて言った。

ワンチャンって、下品すぎるだろ、コラ。

「流石にどんだけ素敵な人でもちゃんと付き合ってくれる人がいいかな」

「だから、そんな事言ってるからダメなんですって」と真美先生は真顔で言った。

いつもふざけている彼女に真顔で言われるのはダメージがでかい。

「いつもだぼっとした服着てるから、たまにら体のラインが出る服着てみたらどうですか?」美雪先生が落ち込んだ私を励ますように言った。

「そうそう、そうしないとそのエロい体と綺麗な顔が宝のもちぐされにってもうなってるか」と真美先生がまた笑った。

「エロいって言うな、あー一緒に温泉行かなきゃ良かった」

そう頭を抱えると、真美先生はさらに追撃する。

「私、亜紀先生に女として勝ってる所なんて年齢ぐらいしかないです。それは素直に認めます」

美雪先生も追随した。

「私もそう、亜紀先生は綺麗だしスタイルいいし凄く優しいし、真美先生がこんな失礼な事言っても怒らない、っていうかむしろ喜んでるし」

真美先生が何か急に持ち上げて来る時は注意した方がいい。

何を言われるのかと構えるととんでもない一撃が来た。

「私あんまり可愛くもないし、性格も良くないけど亜紀先生よりは幸せです、新婚だし」

私が両頬を押さえて「ああばばああなあか」と声にならない叫びを上げると二人は笑った。

五歳下の美雪先生と八歳下の真美先生にいじられまくるこの悲しさ。

そしてそれを楽しんでいる自分への恐怖。


でもそろそろ仕事に戻らないと。

ふと机を見ると村の共用スペースに置いてあった女性週刊誌の抱かれたい男ランキングのページが開かれていた。

今から廃本処理をするようだ。

「とにかく、来年は丸山さんに一票」そう言い残し、図書室を出た。
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