第135話 夜の街で

文字数 1,072文字

とにかく彼を家に入れ部屋に座らせ、暖かいお茶を出した。

「本当に来たの?」

「あれから急いで東京駅行ったら最終の新幹線に乗れた。さっきごめん、亜紀ちゃんってすぐ騙せそうだから、風俗は大したことないって思わせようとあんなふざけた態度だった。最初からちゃんと謝れば良かった、本当ごめんなさい」

「私に大した事ないって思わせて堂々と行こうとしてたの?」

「違う、ただこの記事が出るってなった時に亜紀ちゃんが俺のこと嫌いになるのが容易く予想ついて、切り捨てられそうで怖かった。だから大した事ないって思わそうとして」

「……私がこういうの嫌がるだろうなってわかっててたんだ」

「……わかってた、付き合ってくれるってなった時から真っ直ぐに俺のこと愛してくれてたから絶対に許せないだろうなって。俺の甘さがこんなことを招いた、ごめん」

小さくなってる彼の前に週刊誌を置いた。
「見るな買うな信じるなって言われたけど、どうしても気になって買ってしまいました。ごめんなさい」

泣きそうになりながらそう言うと「いやあれだけ言えば気になると思う」と彼は気まずそうに言った。

「こういうのって事実じゃないことも多いと思う、だからどこからどこまで本当なのか教えて」

彼は週刊誌のページを開くと目を通し私を見た。

「俺嘘つくのは嫌だから、正直に話すと、全部事実です。このお店にずっと通ってたのも、ノーマルなプレイしてたのも、彼女ができたからもう行かなくなるって言ったのも本当です」

頭を棒で殴られたような衝撃、心のどこかで大袈裟に書かれてるだけと自分を言い聞かせてたからだ。

部屋に静寂が訪れた、1分ほどすると耐えられなくなり口が勝手に喋り始めた。

「いろんな種類のお店があるって聞いたことがあって、ソープって何してくれる店なの?」

「……ソープっていうのは、最後までさせてくれる所で」
「最後までってどういうこと?」
彼が心底気まずそうに言った。
「性行為を最初から最後までさせてくれる店です」

何にも言えなかった。思考が完全に停止してしまった

再び気まずい時間が一分ほど流れ、口が脳の代わりに勝手に喋り出した、

「何かお金を介して最後までしちゃいけないっていう法律があったような」

彼は何故か得意気に答えた。
「その場でソープ嬢と恋に落ちて、自由恋愛でしてる体だから大丈夫」

「……恋に落ちてるんだ、……自由恋愛」

私がそう呟くと、彼が慌てて「そういう体だから、本気で落ちてる訳じゃない」と言っているのが上の空で聞こえた。


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