第294話 同窓会

文字数 1,807文字

彼を見送った後に北陸新幹線に乗り込み高崎で降りた。

軽い買い物をして昼1時ぐらいに智とその友達のやっさんに会った。やっさんは智と健の高校時代からの友人で一ヶ月ほど家に居候していたこともある。

回転寿司で二人にお腹いっぱい食べさせ、智に買った物を毎日レシートの写真を送る事を約束させた。その上で来週とその来週の分、一万円貸した。

智によると、子供が産まれそうな時に東京に行く新幹線の回数券は美子ちゃんが置いてってくれたそうだ。

やっさんがお茶を飲みながら嘆いていた。
「きっとこうなることを予想していたんだ、美子ちゃんは本当にできた人だ。なのにこいつは」

私も全くの同感だ。親友に怒られても相変わらず智はヘラヘラしている。

世の中の多くの姉と兄が思うことかもしれないけれど、こんな奴のどこが良かったのだろう。


智達と別れ、街中をブラブラし時間より十五分程早く着くと会場のグランドホテル鶴の間には懐かしい顔が溢れていた。

確か「あの人国語コースにいた」「あの人は英語コースにいたな」と古い記憶を掘り起こし必死に思い出していた。

男の子の顔はあんまり覚えていないけれど、四年間一緒に過ごした女の子達と会えるのが嬉しい。

けれど、ショックなこともある。

女の子達の殆どが子供連れだったことだ。私も受付の人に「託児サービスをご利用ですか」と聞かれたのが地味に応えた。

大学時代にいつも一緒にいた子達三人と合流すると中へ入った。

「久しぶりだね、セイコの結婚式が3年前だったからそれ以来?」「会いたかったけど、子供がいてどうにもこうにも」「わかる、もう子供の奴隷って感じ」

他の3人の子どもトークに加われず疎外感を感じる、仕方がないんだけど。


四人で会場を歩いていると、人だかりを見つけた。「何?有名人でも来てるの?」春子がそう言うと「ねぇ、先生来てる!」とキイちゃんが鼻息を荒くした。

「先生って?」セイコが聞き返すと「義政先生先生!」と春子が叫んだ。

キイちゃんも春子もセイコも一斉に駆け出した。

そりゃそうだ。私も前に先生に会わなければ一緒に走っていたに違いない。

みんなに何とか追いつくと先生を取り囲む輪の中に入った。

義政先生はみんなの名前を当てているようだ。
「えっと舞田セイコさん、それに木上幸子さん、向井春子さんじゃなくて坂元春子さん」

セイコが感動している。
「私達のことちゃんと覚えててくれて嬉しいです」

「いや、初めて大学で教えた教え子だからよく覚えてるよ」

「流石義政先生!じゃあこの子は覚えてますか?」

春子が私を先生の前に無理やり連れてきた。

「山浦亜紀さん」

先生はそう言って微笑んだ。

こう言う時に「この間弟の部屋で会ったよね」と無駄なことを言ったりしない、流石義政先生。

先生を中心に昔の思い出話に花が咲く。みんなお酒が入ってるせいか、在学中よりも明るい。

そのうち誰が言い出したかわからないけれど、今何してるか近況報告をすることになった。

教育学部なので先生をしている人が圧倒的に多い、そしてみんな当たり前のように家族がいるのだ。

「今度三人目が生まれます」「上が小学校入学します」友達の春子は同級生の坂本君と結婚している。それを報告して「3歳の双子の男の子がいます」と続けると「おめでとう」というより一層大きい声援と拍手が巻き上がった。

まずい、よりにもよって次に私に回ってきてしまう、どうしたらいいか。というか何で全員が結婚してるの?

急にトイレに行くのは変だし、こうなったら悲壮感が出ないように明るくまだ独身ですと言って軽く流して貰うしかない。

「ほら順番回ってきたよ」隣にいた男の子に言われた。

「あっ、ごめんごめん。えっと山浦亜紀です。今群馬の山の上小で四年生の担任してます。まだ独身です。誰かいい人がいたら紹介して下さい」

明るくそう言った筈なのに何故だか場が静まり返った。

「やめて、みんなせめて笑って」

心の中でそう叫んだ。

隣から「俺も独身だよ、じゃあ俺と山浦さんで付き合おうか」という声が聞こえた。

誰かの一言でその場は笑いに包まれる。

大学在学中と何ら変わらずお調子者の坂本君がチャチャを入れるのが聞こえた。
「塚田君、昔から山浦さんの事好きだったよね。他に彼女いたけど」

さらに笑いが起こる、本当に助かった。

ちょっと待って、塚田君?

隣をみるとそこには大学時代よりも少し歳を取った塚田君が立っていた。

「あっ、塚田君!」

思わずそう言うと塚田君は私を見て微笑んだ。
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