第162話 師走の夜

文字数 757文字

「忘れてた、アパート古いからお風呂沸かすの手動なんだよね。ヤバいヤバい、これはかなりヤバい。ヤバいヤバい、これはかなりまずい。冷めないうちにちょっと入ってくる、すぐ上がってくるから待ってて」

いつもは三十分入っているけれど今日は十分ぐらいで出てきて髪を乾かした。

風呂上がりにいつの間にかラフな服装に着替えてベッドに寝転んでいる彼に「お風呂入る?」と聞くと「今日一日中温泉ロケしてたの、新潟の秘湯で日本猿と風呂入るまで帰れないってやつ朝の九時からやってたからな」

「それ入れたの?」
「あいつら三時に現れて人間なんか全く気にせずに入ってったよ」
「日本猿とお風呂って可愛いけど、ちょっと嫌だね」
「だろ?その後ちゃんとした旅館の風呂で二時間かけて体洗いまくったから。ほら俺の腕ツルツルだぞ、触ってみて」

「凄いツルツル。赤ちゃんの肌みたい」彼と目を合わせると得意気に「だろ?」と言った。

「亜紀、そのパジャマ可愛いね」
「あっこれ?ネットで買ったんだ。パジャマぐらい好きなの着たいし」
彼は話の流れを全く無視して、私を見つめている。
「俺のことどれぐらい好きかギュって抱きしめて表現して」
「唐突に何それ」と言いながらも彼を精一杯の力でキツく抱きしめた。すると耳元で「亜紀、俺も愛してるよ」と囁いてキスしてきた。

そしてパジャマの下から手を入れ背中を直に触ってきた。
やっぱりおかしい、何かがいつもと違う。

彼は突然キスを止めると私の首筋を一回口でなぞった。混乱する間もなく耳元で「じゃあ俺も亜紀のことどれだけ愛してるか抱きしめて表現してやるよ」と囁かれ力いっぱい抱きしめられた。

けれど力を入れた場所が悪い、腰の中でも特にこの間痛めて治りかかってきた場所。 

声にならない悲鳴をあげた。



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