第21話 コスモ山浦

文字数 977文字

「実家は近くなの?」

丸山さんが何気なく訪ねたこの一言にも答えが詰まる。


「えーっとですね、実家の話をすると難しくなるんですけど、28歳までは新潟新幹線に高原温泉っていう駅あって、そこの近くの山奥に実家がありました」

「ありました?」彼が不思議そうに聞き返す。

「それから高崎に二年住んで、今ここに五年目住んでます」

丸山さんは何だか腑に落ちない顔をしていたけれど、それ以上聞くことはなかった。

的を得ない発言をしたので、聞いちゃいけないと思い気を遣ってくれたんだと思う。

「丸山さんはご実家どこなんですか?」

「俺は東京、ずっと東京」
彼がつまらなさそうに呟いた。

「羨ましいです。若い頃は東京に住むのが憧れで本当は東京の大学に進学する予定だったんです。結局地元の大学に行きましたけど、いいなぁ東京か」

「何でそんな羨ましいの?」
「こんな事言ったら馬鹿だと思われるかもしれないけど、何かキラキラしてるじゃないですか?」

「上京する直前の女子大生みたいな事言ってるよ」そう言って丸山さんは笑った。

「その頃からイメージが動かないんですよ、行けなかったから」そう言って私も笑った。

「東京に来て何したかったの?」
「…ナイトプール行きたかったです」

丸山さんは思わず吹き出した。

「何でそこ?」と聞かれたので「キラキラして綺麗だから行きたいんですよね」と真顔で答えた。

テレビを見ていたら、凄く綺麗な夜景見えるライトアップされたプールが映っていた。

久しぶりに胸がときめき、十歳若かったら本気で行ってみたかったのだ。

「よしっ、じゃあ行こうか」と丸山さんも真顔で言ったので思わず吹き出した。

「ちょっと待って、この歳で派手な水着でアリエルが乗るような貝殻の浮く奴に乗って、自撮り棒で自分撮りに行けるわけないでしょ」

と笑うと「いや、まだいける」と丸山さんまた真面目な顔で言ったので

「私、水着って学校の授業用しか持ってないですから。絶対日焼けしない、学校に視察に来たイスラム教の先生達に「それなら私も着られそう」って言われたやつですよ。

丸山さんって本当に調子いいんだから」と笑った。

彼は「いいだろ、一番目立つよ」とまだ真剣な表情で言ったので

馬鹿にしてるんですか、早くご飯食べて下さいよ」と笑った。
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