第288話 バレンタインデー
文字数 1,472文字
彼やスタッフさん達に後は任せてその様子を眺めていた。
ヒロくんは勿論そうなんだけども、他の子達も嬉しくて彼を取り囲んでいるのは芸人さんとして流石だなと思う。
ふと一人だけ遠巻きに見ている子に気が付いた。新年明けて高崎から村に引っ越してきた宗教団体の子だ。
この子は普段もの静かだが、急に何かに取り憑かれたように暴れ出す面もある。なのでみんな腫れ物に扱うように接していて、転校してきて一ヶ月経つのにクラスに馴染めていない。
自然派の宗教団体なので家にテレビもないだろうし、彼に会うのも初めてだから何のことやらさっぱりだろう。
「あの人秋に登山に着いてきたお笑い芸人さんなんだよ」
そう話しかけたけれど、やっぱり今は何の反応もなかった。
仕方ない。
ヒロくんが「昨日ネットでさ」と例の件を持ち出そうとしたのが聞こえる。
「やめろ!」
彼がヒロくんを止めてくれたので一安心した、と思いきや続きを大声で叫んだ。
「亜紀先生とキスしてた写真のことで俺をいじってくるのやめろ!」
目眩がして倒れるかと思った、黒板に寄りかかりなんとか倒れずに済んだ。
キスが最高にエッチなことだと思っている純朴な山の子ども達は「キャー」と大興奮している。
……私まだ一ヶ月この子達と過ごさなくちゃいけないんだけど……
ここには大人の村人がいないのがせめてもの救いだ。
そうこうしているうちに四時間目終わりのチャイムが鳴ったので、慌てて自分の役目を果たした。
「みんな一回座って」と声をかけてとにかく座らせた。
「今日はなんと丸山さんが一緒に給食を食べてくれることになりました。だから皆んなで頑張って給食の準備早く終わらそうね。じゃあ手を洗ってきて準備して下さい」
子供達は歓喜の声を上げる。子供達が手を洗いに水道へばらけた頃、彼が話しかけてきた。
「ねぇ、あれない?子供が着てる白いやつ」「給食着?」「そう、給食着」
私はロッカーから予備の給食着を出すと丸山さんは嬉しそうに着始めた。
180センチある彼が無理やり子供用の給食着を着て今にもはちきれそうになっている。
子供達が彼の周りに集まってきて笑っている。
本当にそのまま子供達と一緒に給食ワゴンを持ってきて、レタス汁までわけてくれた。
そして何故だかここに婦人会の人や村関係の人達が続々とやってきている。
うちの学校は他の学校に比べて幾分か教室が大きいとはいえ、大人がプラス二十人いる教室は圧迫感が半端ない。
さらに廊下からは真美先生や敏朗先生、校長先生、教頭先生と言ったクラスを持っておらず職員室で給食を食べる先生達が見学している。
全部の配膳が終わった頃、極め付けに山の上村のゆるキャラ、レタスんまでやってきた。
子供達は大喜びし、レタスんの手を引き丸山さんの前まで連れて行った。
「レタスんだよ!」「好きな食べ物はレタスのオイスターソース和えなんだよ」
彼は「共食いか」そう言うも、レタスんも慌てて口を押さえて子供達を笑わせた。
「あとね、丸ちゃんだけにレタスんの秘密もう一個教えてあげる」「何?」
「この中ね、村役場の斎藤さんが入ってんだよ」
子供は教えなくていいことまで何でも教えてくれる。
レタスんはさも困ったかのような可愛い動きをした。
丸山さんは「そっか君、斎藤君か」と言い、レタスんの肩を何回か叩くとまた子供達は笑った。
その時一人の女性がハイヒールを鳴らして丸山さんとレタスんに歩み寄るのが見えた。
斎藤君の奥さんだ。
彼女は何度「学校は上履きで入って下さい」と注意されても一向に注意を聞き入れず、高いヒールの靴で入ってくる。
急に場が鎮まり返った。この人一体何するんだろう。
ヒロくんは勿論そうなんだけども、他の子達も嬉しくて彼を取り囲んでいるのは芸人さんとして流石だなと思う。
ふと一人だけ遠巻きに見ている子に気が付いた。新年明けて高崎から村に引っ越してきた宗教団体の子だ。
この子は普段もの静かだが、急に何かに取り憑かれたように暴れ出す面もある。なのでみんな腫れ物に扱うように接していて、転校してきて一ヶ月経つのにクラスに馴染めていない。
自然派の宗教団体なので家にテレビもないだろうし、彼に会うのも初めてだから何のことやらさっぱりだろう。
「あの人秋に登山に着いてきたお笑い芸人さんなんだよ」
そう話しかけたけれど、やっぱり今は何の反応もなかった。
仕方ない。
ヒロくんが「昨日ネットでさ」と例の件を持ち出そうとしたのが聞こえる。
「やめろ!」
彼がヒロくんを止めてくれたので一安心した、と思いきや続きを大声で叫んだ。
「亜紀先生とキスしてた写真のことで俺をいじってくるのやめろ!」
目眩がして倒れるかと思った、黒板に寄りかかりなんとか倒れずに済んだ。
キスが最高にエッチなことだと思っている純朴な山の子ども達は「キャー」と大興奮している。
……私まだ一ヶ月この子達と過ごさなくちゃいけないんだけど……
ここには大人の村人がいないのがせめてもの救いだ。
そうこうしているうちに四時間目終わりのチャイムが鳴ったので、慌てて自分の役目を果たした。
「みんな一回座って」と声をかけてとにかく座らせた。
「今日はなんと丸山さんが一緒に給食を食べてくれることになりました。だから皆んなで頑張って給食の準備早く終わらそうね。じゃあ手を洗ってきて準備して下さい」
子供達は歓喜の声を上げる。子供達が手を洗いに水道へばらけた頃、彼が話しかけてきた。
「ねぇ、あれない?子供が着てる白いやつ」「給食着?」「そう、給食着」
私はロッカーから予備の給食着を出すと丸山さんは嬉しそうに着始めた。
180センチある彼が無理やり子供用の給食着を着て今にもはちきれそうになっている。
子供達が彼の周りに集まってきて笑っている。
本当にそのまま子供達と一緒に給食ワゴンを持ってきて、レタス汁までわけてくれた。
そして何故だかここに婦人会の人や村関係の人達が続々とやってきている。
うちの学校は他の学校に比べて幾分か教室が大きいとはいえ、大人がプラス二十人いる教室は圧迫感が半端ない。
さらに廊下からは真美先生や敏朗先生、校長先生、教頭先生と言ったクラスを持っておらず職員室で給食を食べる先生達が見学している。
全部の配膳が終わった頃、極め付けに山の上村のゆるキャラ、レタスんまでやってきた。
子供達は大喜びし、レタスんの手を引き丸山さんの前まで連れて行った。
「レタスんだよ!」「好きな食べ物はレタスのオイスターソース和えなんだよ」
彼は「共食いか」そう言うも、レタスんも慌てて口を押さえて子供達を笑わせた。
「あとね、丸ちゃんだけにレタスんの秘密もう一個教えてあげる」「何?」
「この中ね、村役場の斎藤さんが入ってんだよ」
子供は教えなくていいことまで何でも教えてくれる。
レタスんはさも困ったかのような可愛い動きをした。
丸山さんは「そっか君、斎藤君か」と言い、レタスんの肩を何回か叩くとまた子供達は笑った。
その時一人の女性がハイヒールを鳴らして丸山さんとレタスんに歩み寄るのが見えた。
斎藤君の奥さんだ。
彼女は何度「学校は上履きで入って下さい」と注意されても一向に注意を聞き入れず、高いヒールの靴で入ってくる。
急に場が鎮まり返った。この人一体何するんだろう。