第77話 武道館の後で
文字数 1,542文字
落ち着け、落ち着け、ここでこんなにパニックになっていることを彼に悟られてはいけない。引きつった笑顔でこう言った。
「そんなにオゾンで買った890円のシャンプーの匂い好きなんですか?」
そう言うと彼は笑った。
「いい匂いっていうのは、このシャンプーの匂いのするアキちゃんが好きだぜってベイビーって言ってるんだって」
照れ隠しのベイビーが面白くて「ちょっと古い」と笑った。
「じゃあ俺はどんな匂いする?」
ここで変な匂いとでも言って笑いに代えて欲しそうだったけれど、何故だか真面目に答えたかった。
「匂いはよくわからないけど…あったかい、何か凄くあったかい、かな」
そう言うと彼は今までよりも強く私を抱きしめた。しばらくすると抱きしめるのをやめ、私の右手を繋いだ。
「冷えたね、中に入ろう」と言ってそのまま手を繋ぎ中へと入った。
靴をベランダに置いたままだと思ったけれど、そんなこと言い出せる雰囲気じゃない。帰るときにとればいいか。
靴触ったから手を洗いたいけれど、そんなこと言い出せる雰囲気じゃない。帰りに駅で洗おう。
ソファに私を座らせ、隣に彼が座ってまた手を繋いだ。
女慣れし過ぎてて怖い、この人一体何人の女に同じことをしてきたのだろう。
彼に合わせるために必死に平静を装おうとしていたけど、今までと違い二人が離れている距離が1センチも無かったから、緊張してどうしていいかわからない。
丸山さんは私の混乱なんか知らず、呑気に繋いでない方の手でテレビのリモコンを持ち、ザッピングをしていた。いくつか変えてバラエティ番組に決めたようでリモコンを机に置いた。
「リモコンは机の上に置きっぱなしでいいんですか?」
「すぐチャンネル変えたいから、それは許す」と何故だか偉そうに言ったので笑みが溢れた。
「私はそこまでテレビ番組に拘りないから、リモコンはテレビの下の引き出しに入れちゃいます」
「そんなに物があるの嫌なの?大丈夫?」
彼が自分を棚に上げて大袈裟に私を心配した。
「私は丸山さんよりましですって、だってCDとDVDとポスターは置いても大丈夫だから」
「じゃあ、俺も好きなAV女優のポスター貼ってDVD並べとく」
「智と一緒なことするの止めて下さい、こんなのみてるんだって思いたくないし。智は結婚するまでは、ボーナス出たらAVと夜のお店に注ぎ込むのが生きがいだって豪語してたんですよ」
「あいつの気持ちわかるな」と彼がヒッヒッヒと笑った。
「健もそうなの?」「健は私に似て神経質っていうか、そういうのちゃんと隠しておくし、夜のお店は真面目に働いてる女の人達には悪いけど、ちょっと無理って言ってるし、部屋も凄く綺麗だし」
「健も血繋がってるんじゃないの?」
「それが繋がってないんですよ、本当のお母さんとお父さんも同じ村内には住んでたんだけど、親戚じゃないし」
「そうなんだ。そういえば健は東京にいるんでしょ?東京来たついでに一緒にご飯食べたりしないの?」
「声かけようって思って忘れてたんですよね、ちょうど昨日電話かかってきたから、聞いたら女の子と予定入ってたみたいで、明日の夕方大事なオーディションあるはずなのに、デートして大丈夫?って口には出せなかったけど、心配です」そう笑った。
「オーディションかその響き懐かしいな〜健ってさ俺のこと何か言ってた?」
丸山さんが探りを入れてきた。きっと健の事務所の子達にした悪行を私が知っていないか気になっているのだろう。
「それは健の個人的な感想ですか?健の事務所の皆さんの感想ですか?」
「やっぱり言われてた、両方ありのままの教えて、俺反省するから」
彼は天井を見上げて目を瞑った。
「そんなにオゾンで買った890円のシャンプーの匂い好きなんですか?」
そう言うと彼は笑った。
「いい匂いっていうのは、このシャンプーの匂いのするアキちゃんが好きだぜってベイビーって言ってるんだって」
照れ隠しのベイビーが面白くて「ちょっと古い」と笑った。
「じゃあ俺はどんな匂いする?」
ここで変な匂いとでも言って笑いに代えて欲しそうだったけれど、何故だか真面目に答えたかった。
「匂いはよくわからないけど…あったかい、何か凄くあったかい、かな」
そう言うと彼は今までよりも強く私を抱きしめた。しばらくすると抱きしめるのをやめ、私の右手を繋いだ。
「冷えたね、中に入ろう」と言ってそのまま手を繋ぎ中へと入った。
靴をベランダに置いたままだと思ったけれど、そんなこと言い出せる雰囲気じゃない。帰るときにとればいいか。
靴触ったから手を洗いたいけれど、そんなこと言い出せる雰囲気じゃない。帰りに駅で洗おう。
ソファに私を座らせ、隣に彼が座ってまた手を繋いだ。
女慣れし過ぎてて怖い、この人一体何人の女に同じことをしてきたのだろう。
彼に合わせるために必死に平静を装おうとしていたけど、今までと違い二人が離れている距離が1センチも無かったから、緊張してどうしていいかわからない。
丸山さんは私の混乱なんか知らず、呑気に繋いでない方の手でテレビのリモコンを持ち、ザッピングをしていた。いくつか変えてバラエティ番組に決めたようでリモコンを机に置いた。
「リモコンは机の上に置きっぱなしでいいんですか?」
「すぐチャンネル変えたいから、それは許す」と何故だか偉そうに言ったので笑みが溢れた。
「私はそこまでテレビ番組に拘りないから、リモコンはテレビの下の引き出しに入れちゃいます」
「そんなに物があるの嫌なの?大丈夫?」
彼が自分を棚に上げて大袈裟に私を心配した。
「私は丸山さんよりましですって、だってCDとDVDとポスターは置いても大丈夫だから」
「じゃあ、俺も好きなAV女優のポスター貼ってDVD並べとく」
「智と一緒なことするの止めて下さい、こんなのみてるんだって思いたくないし。智は結婚するまでは、ボーナス出たらAVと夜のお店に注ぎ込むのが生きがいだって豪語してたんですよ」
「あいつの気持ちわかるな」と彼がヒッヒッヒと笑った。
「健もそうなの?」「健は私に似て神経質っていうか、そういうのちゃんと隠しておくし、夜のお店は真面目に働いてる女の人達には悪いけど、ちょっと無理って言ってるし、部屋も凄く綺麗だし」
「健も血繋がってるんじゃないの?」
「それが繋がってないんですよ、本当のお母さんとお父さんも同じ村内には住んでたんだけど、親戚じゃないし」
「そうなんだ。そういえば健は東京にいるんでしょ?東京来たついでに一緒にご飯食べたりしないの?」
「声かけようって思って忘れてたんですよね、ちょうど昨日電話かかってきたから、聞いたら女の子と予定入ってたみたいで、明日の夕方大事なオーディションあるはずなのに、デートして大丈夫?って口には出せなかったけど、心配です」そう笑った。
「オーディションかその響き懐かしいな〜健ってさ俺のこと何か言ってた?」
丸山さんが探りを入れてきた。きっと健の事務所の子達にした悪行を私が知っていないか気になっているのだろう。
「それは健の個人的な感想ですか?健の事務所の皆さんの感想ですか?」
「やっぱり言われてた、両方ありのままの教えて、俺反省するから」
彼は天井を見上げて目を瞑った。