第246話 深夜の訪問者

文字数 1,644文字

「山浦さんは騙されてるんだよ、こいつどんなことしてきた奴だかわかってる?」
彼が気まずそうに私と先生に割って入った。
「亜紀は俺がどんなことしてきたか知ってるよ。調子乗って女遊びしてたことも知ってるし、消費者金融で借金してたことも知ってる。それは言ってこないけど」

クリスマスイブの時に彼の元相方さんから言われたことが彼まで報告が上がっていたらしい。
「いや、あれは売れてなくてお金がない時にどうしても彼女に何か買ってあげたくて借りに行った泣ける話なのかなって思って敢えて触れてない」

「山浦さんそれ違うから!」「それ以上言うの止めろ、怒られる」「重明は一人暮らし始めたのはいいものの、バイトしたくなくて消費者金融から借りてたんだよ!」

予想以上にひどい話だった、唖然と隣に座る彼を見ると「いや、だから誰でもいつでも借りれるってちらしに書いてあったから、売れたら返そうと思って、そしたらどれだけ借りても催促に来ないから、好きなだけ借りてもいいんだって」
「すっごく嫌な予感がする、それちゃんと返したの?」
彼は気まずそうに黙り込んだ。先生はかなり怒っている。
「母さんが消費者金融から電話かかってくるたびに返してたんだよな!」
「うわっ、うわっ、最悪!その話知ってたら付き合ってないから!」

「だから姉ちゃんが重明の所行って一緒にバイトないか探しにいって、これだけ月に稼げるから自炊の仕方とか自由に使っていいお金はこれだけでって教えてやったんだよ」

「何そのどこかで聞いた話?ビッグハート好きのアイツとやってること一緒でしょ?」
「アイツと一緒にすんな!俺はモテて女に不自由したことないから風俗はその頃行ってない」
「もう最悪!」

「山浦さん、本当に重明はこういう男なんだよ!高校の時も勉強しないならバイトすればいいのに、それすらせずに怪しい奴らとつるんで、母親に金せびって無駄に鞄とか服とかブランド物に凝るし金銭感覚おかしいから絶対に別れた方がいいと思う」

何故だか彼は得意気にこう言った。
「俺は最近ブランド物に興味なくして買ってない」
「そういえばここ暫く高い物買った自慢聞かない、何で?」
「自慢しても亜紀が心の篭ってない「凄いね」しか返さないから、どうでもよくなった」
「ブランド物に興味ないのに凄いねって言ってあげるだけ有難いと思ってよ」
「せめてもっと気持ち込めろ、そしたらまだ拘ってられた」
「じゃあ昨日ホワイトアンドブラックのアンソロジーボックス届いたんだけど8000円したの、いいでしょ?どんな凄いねくれるの?ねぇ、今言ってみてよ」
「やめろ!実の兄の前で俺を追い込むな。別に見た目に拘らなくなってもいいだろ?」  

「駄目だって、見た目に拘らなくなったらおじさん一直線じゃん」
「もう年相応のダサいおっさんになってもいいだろ?カッコつけるのに疲れた」
「うん、まあ確かに元気で居てくれればそれでいいかも」
そう言って二人で目を合わせて笑うと私達を眺めていた先生がこう言った。

「山浦さんも重明も最近のことは知らないけど相反する二人だと思ってた。意外と凄く気が合うんだ」

「確かに気があって一緒にいて楽しいかも」
そう言って彼を見ると彼は私と一瞬目を合わせ微笑むと真剣な眼差しで先生を見た。

「俺は五年前のあの時からもう女遊びはしてないし、風俗店も亜紀が泣いて怒るから行ってない。嫌いな仕事も受けてちゃんと働いてる、ブランド物も興味無くなった、ほらこれで付き合っててもいいだろ?」

「今までのことがあるから俺いまいち重明のこと信用できない。山浦さんにこれ以上苦労させられないから、頼む別れてくれ」
「別れねぇから」

先生はお母さんとは違う意味で私たちが付き合っていることに反対している。彼と「別れてくれ」「嫌だ」と言い合いしている先生を見ていたら私の頭の中に十何年前の記憶が蘇り、思わず隣にいた彼の腕を引っ張った。

「ねぇ、私すごい事思い出しちゃった」
「何?」
彼を指差した。
「義政先生のチンピラの弟さん。一回大学の先生の部屋来なかった?」
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