第226話 伊豆の踊子

文字数 1,320文字

「話を戻すけど、世の中には処女好きの男が一定数いる、でも俺はそういう性癖はないしこの俺が見ないAVジャンルの一つだ」
「全部見ないとAVマイスターになれないよ」
「ちょっと亜紀その口押さえてろ」

言われた通りに口を押さえると彼は小さくため息をつき、もう一度私の肩を抱いた。

「何でそのジャンルだけ見ないの?」
「そこ掘り下げるの?いいけど。興奮しないんだよ、つまらないし」

そういうものなんだと軽く相槌を打つ。
「実際の女でもそうだからな、直ぐに気持ち良くなりたいんだよ。それに初めての男って責任負わなきゃいけない気がするし。俺だからある程度は経験豊富な子としかやったことない」

「……責任って……じゃあ何で私と付き合ってるの?」
「亜紀なら面倒なことも別にいいし、寧ろ亜紀から男を遠ざけてた健に凄く感謝してる。亜紀に元カレがいたら俺嫉妬で狂ってるから」

そう真剣に語る彼がおかしくて笑みが溢れた。
「要するに何でもいいんだ」
「亜紀とだったら何でもいいだろ?愛してるんだから」

彼が私を真剣な眼差しで見つめた。
「俺は初めての男として責任取るからもっと深い関係になりたい」

きっと彼なりの口説き文句だったと思うけれど、責任という言葉にどうしてもひっかかってしまった。彼の一方的な思いに腹が立って彼から目を逸らした。

「責任取ることなんか望んでない」
「何でだよ、俺は責任取って結婚しようと思って」
「重っ」
「俺の愛を重いって言うな」

「責任取って結婚という言葉は嫌い、責任取って結婚したうちの親不仲であんなんだったし。結婚ってその人と一緒に生きていこうと思った時にするもんなんじゃないの?」

「そんだけでいいの?じゃあ結婚するか」
彼がじゃあご飯でも食べにいこうかというノリでそう言ったのでかなり苛ついた。そういう流れに乗って口説き文句として軽い気持ちで言う言葉では決してない。

「そういうとこだぞ!」と彼を指差していうと急に大人しなくなった。

また急に部屋が静かになった。何となく彼の肩に顔を乗せた。
「亜紀はそんな軽い貞操観念の持ち主だったの?」
彼にそう言われたので「そんな重い貞操観念の持ち主だったっけ?」と言い返し二人で笑った。

「後は心配な事あるの?」
「心配なことしかない、今私としても上手くできないから気持ち良くないだろうなとか」
彼はまた笑った。

「あーもうわかってるようでわかってないな。俺は気持ちいいだろ?気持ち良くないの亜紀だぞ絶対痛いからな、血も出るかもよ」

「テンション下がること言わないでよ。でも八年前に担任した荒れてる学校の一番荒れてる小六女子が言うには、女慣れしてる人だったら痛くないって言ってた。だからきっと痛くないよ、ね?」
そう言って彼を見つめて微笑んだ。

「俺にプレッシャーかけるのやめろ、というか何で小六に教わってんだよ」
「ガールズトーク、その子不登校で家行ったらその話題しか話してくれないし」
「何だよそれ」
彼は小さく笑った。

「亜紀いいか、俺も精一杯努力するけど今日は絶対痛いからな。それでも俺としてくれるの?」

「うん」と頷くと「何で痛いってわかってるのにしてくれるの?」と聞いてきたので「……愛してるから……って言って欲しいんでしょ」というと彼が微笑んだ。


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