第183話 クリスマスイブ

文字数 1,140文字

全然乗ってこない私に苛つきながら林田さんがやけに滑舌が良い口で捲し立てた。

「いつまでも人気って続くわけじゃないでしょ?この世界って厳しいよ、あいつと一緒にいてこの先不安じゃない?」
「……確かにいつまでも人気者でいられるわけじゃないかもしれないけれど」
「でしょ?俺の会社今年商1億あるんだけど」
「年商って年収じゃないですよね?それに売れなくなったら私が養ってあげるって約束してあるから」

そう言うと林田さんは少し怯んだ。
「そんなに金持ってんの?水商売でもしてんの?」
「お金は持ってないけど私だって働いてるから日々暮らしていくのは困らないし」

「……じゃあ、あいつの昔の話教えてやるよ」
「だからいいですって。どうせ同じアイドルグループ内三人同時に付き合ってたとか、一日に四人も女と会ったとかろくでもない話だから」

「それも知ってんだ。一体何が良くて付き合ってんの?そんなに金かけて貰ってるように思えないし」
林田さんはそう言うとまた私を舐め回すように見た。

思わず「バブリー」と叫びそうになった自分を慌てて止め、深呼吸一つして落ち着かせた。

「自分の欲しいものは自分で買います」

「あいつ昔の女に何か買う為に消費者金融で金借りてたことあるから。何で何も買ってもらえてないの?」

何にも言えなくなった。美咲さんのことそこまで好きだったんだ。流石の私もこの攻撃はかなりのダメージを受けた。林田さんは私が一瞬怯んだのを見逃さない。

「じゃああいつが昔本気で好きだった女の話し教えてやるよ」

私にまた一歩近づいてきた。
この人煙草臭いし口も凄く臭い。

「俺その女とやった事あるんだよ」

一体どういうことだろう。
なぜだか自慢気な林田さんに何にも言えなくなった。彼が25歳でラビッツを結成してるから、林田さんとコンビを組んでたのは多分18歳〜25歳の間だろう。
その頃は多分美咲さんと言う人と付き合ってたはず、一応年代に矛盾はない。

でもしげちゃんと付き合ってるのに仲悪そうな元相方さんとそういう関係になるってあり得るの?ひょっとしたら犯罪がらみ?

何もかも怖すぎるけれど、こんな悪意ある人に負けたくはない、第一に人として間違ってる。

本当はここは大人の対応をしなくてはならないことはわかっている。揉め事を起こさないように耐えなければいけない。

けれど彼のこと馬鹿にしたような全ての言い草がどうしても許せない。
彼が大切にしてた彼女とそういう関係になるってどういうことなの?それを十何年経った今、付き合っている私に自慢するって悪意以外の何ものでもない。

私の正論モンスターの血が騒ぎ出した。こうなったら自分でも止められない。
大きく息を吸った。
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