第168話 師走の夜

文字数 1,307文字

しげちゃんが懐かしそうに雑誌を手に取った。
「俺が一番チヤホヤされてた頃だ」
「これ、もしかして噂の巻頭グラビア」
「そう、これは十年前か」
「見てもいい?」と聞くと嫌がるどころか、何故だか髪の毛を触りながら自信満々に手渡して来た。
この人やっぱりナルシストなんだよね。

ページを開くと1ページ目は何故だかシャワーを浴びている後ろ姿だった。
私は笑った、お腹をかかえて笑った。笑いながら次のページをめくると何故だか濡れた髪で上半身裸で両手を天に仰いでる写真だった。私は笑った。涙を流して笑った。
隣を見ると智もお腹を抱えて笑っていた。

彼は私が想像と違うリアクションをしたのでちょっとイライラしていた。本当は「かっこいい!」と褒めて欲しかったんだろう。でもこの写真は面白すぎる。また笑いがこみ上げてきた。

「いくら何でもそこまで笑うことないだろ?」「だってこんな面白い写真今まで見たことない」

息も絶え絶えに言うと智が次のページを開いた。次のページは白人の女性モデルと彼が抱き合ってる写真で彼が何故かカメラ目線だった。
「ビジュアル系のアルバムのジャケットみたい」
そう言うと智は勿論苛ついていた彼も笑った。「ちょっと待って俺この撮影の為に何ヶ月かジム通って体鍛えたんだけど」

彼の一言が笑いをさらに加速させる。

「体鍛えたって職業なんなの?」と私がヒーヒー言いながら言うと彼が「本当にな」と恥ずかしそうに言った。

「ほらでもこの腕の筋肉見て」と彼が写真を指差したけれども、「私マッチョ好きじゃないし」と言うと、智が「姉ちゃんは男の腕の筋が好きなんだよな」と余計な情報を追加した。

彼が写真を指差した。「ほらここ筋」
「あっ本当だ、でもあんまり見えない」
彼は何故だか腕まくりして腕の筋を見せてきた。
「かっこいい」と私が喜ぶと彼がまんざらでもない様子で、「だろ?」と言った。

その様子を見ていた智がいい事を思い出したように嬉しそうになった。
「姉ちゃん、今こそ自慢の腕の筋肉見せる時だ」
「馬鹿なの?!そんなの恋人に見せるわけないでしょ?!」
「だって兄ちゃんだってこんな面白い写真見せてくれたんだぞ。さっすんに腕相撲で勝った自慢の筋肉見せて」
「それ以上言うと本当に怒るよ!あの面白い写真は笑い取れるけれど、私の筋肉は一つの笑いも取れないから!」

「二人で面白い写真って言いまくってるけど、俺は何の為に見せてんだよ!」
「笑わす為じゃないの?」
「昔こんな面白い写真撮ってたなんて、やっぱ兄ちゃんすげぇわ」と智は彼を尊敬の眼差しで見た。


ちょっと彼が落ち込んでしまったような気がする。急に黙り込んでしまった、何かフォローしないと。

「ジムに行ったか何なのかしらないけど、今の方が数百倍かっこいいよ、ねぇ?」と智に言うと「確かに、兄ちゃん今の方が断然かっこいいよ」と相槌を打った。

彼はやっぱりかっこいいという言葉に弱いらしい。
「そうか?この頃と比べて大分老けたけど」
「いや100対ゼロで今の方がかっこいいって」
私がそういうと満足そうに「俺まだいける」と呟いたのでまた笑った。
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