第57話 ちゃんとした場所
文字数 2,319文字
どうしよう、何とかしなくてはいけない。車の中を見渡したけれど、助けになりそうな凶器は勿論何もない。
スマホを見ると警察に電話をしてから十分、一番近い交番から十五分、あと5分待ってられる?いや待ってられない。丸山さん殺されちゃうかもしれない。
前何かの映像で絶体絶命のピンチで車で犯人に体当たりし、事なきを得たというのを見たことがある。
最終手段だ、これしかない。
車のエンジンをかけた、すると二人の男はこちらを見て、こっちに向かって来た。
その時だった。遠くにサイレンが聞こえたその十秒後、駐車場の入り口にパトカーが見えた。
二人組の男はパトカーの姿に明らかに動揺して、ダムの方へと逃げ出した。私は車のドアを開けると丸山さんへと駆け寄った。
大の字で寝ている丸山さんに「大丈夫ですか?ねぇ丸山さん!」「まぁ、なんとか大丈夫、車の中に女の子いるからその子助けて」そう丸山さんは黒い車を指さした。
ドアが開けっぱなしの車内を覗くと茶色の髪の毛の女の子が怯えた様子で座っていた。
「大丈夫ですか?」
私がそう言うと女の子は顔を上げた、この子は確か私が五年前にこの村で初めて受け持ったクラスにいた男の子のお姉ちゃんだった。
向こうも私に気がついたようで「アキ先生、アキ先生怖かったよ」
私もその子を抱きしめて泣いた。
お巡りさんが顔を出して「大丈夫?あっ、最上の一番上の娘さん、大丈夫だったか?今ご両親呼んだがるから」
と言いまたどこかに行ってしまった。
しばらくすると応援のパトカーが何台か到着したようで、女の子を婦警さんが宥めながらパトカーの中に連れて行き、私は丸山さんを探した。
さっきまで倒れていた所にはおらず、もうすでに立ち上がって違うお巡りさんに何やら事情を聞かれている様子だった。
お巡りさんがその場を離れたのを見計らって彼に近づいた。
「立てるの?」
「あったり前よ、あっこれから警察署で事情聴取だってよ、アキちゃんも」
「まぁそうだよね。あの男二人は?」
遠くでサイレンが鳴り響いている。パトカーが何台も入ってくるのが見えた。
「ダムのとこに逃げてったけど、お巡りさん達が今追いかけてった。って次から次へとパトカー来るけど、大丈夫なの?署全員来るの?他に通報あったらどうするの?」
「心配しなくても、そんなに事件起きないから。怪我大丈夫ですか?痛くないかな?」
丸山さんの頬ぼねのあたりの内出血をじっと見た。
「こんなもんメイクでして貰えば大丈夫」
「やっぱり男の人もメイクするんですか?」「俺も最初びっくりしたけど、なんか塗られる。顔色が違うんだそうだ」
「顔以外は大丈夫ですか?」
「うーん、打撲だけだから大丈夫だ。あーあんなに得意気に出て行ったのにアキちゃんにかっこ悪いとこ見せちゃったな」
「そんなことないです、かっこよかったです」
私の心からの言葉だった。
「でも俺一方的にやられっぱなしだったんだけど、あーこんなことならパンチングマシーンの木村君みたいに中高校時代は喧嘩に明け暮れてれば良かった。そしたら一髪ko、キャーって言われてたのかもしれないのに」
彼が自分の背中を押さえながら言った。さっき蹴られてたから凄く痛いのだろう。
「丸山さんちょっと背中見せて下さい」
「亜紀ちゃん、こんな所で俺の裸みたいなんて、俺外でする性癖はないから。亜紀ちゃんの部屋戻ってさ」
丸山さんが色々言っていたのを無視して彼のTシャツをめくると背中に大きな内出血の痕が見えた。
「凄く内出血してる、これ仰向けに寝たら痛いかも」
「じゃあ俺が仰向けにならないようにやろうかか。最初は普通に俺が上に」
「もう何言ってるんですか、今から警察署行くんでしょ?」
そう笑うと丸山さんも「わかってるけどさ」と笑った。
「あー昔キックボクシングとかやってれば良かった。木村君みたいに喧嘩に強い男になりたい」
彼はそう叫んだのを見て笑みが溢れた。
「そんな丸山さんは見たくないです」
「俺、木村君と仲いいんだよ」と何故か得意気に言った。
「そうなんですね、木村さんってヤンキーキャラだから、何か全然タイプ違いそうなのに意外な交友関係」
「だろ?事務所も同じで若い時から一緒だったから」
「へぇ、同じ釜の飯を食べた仲間ですね」
「そうだよ、あーおれ喧嘩弱い」
彼はそう言って強く目を閉じて首を振った。
「喧嘩なんか弱くていいです、私怖くて足がすくんで、助けに行かなきゃって思ったのに全然動けなかったから」
「亜紀ちゃんが来たら余計に厄介だから、車にいてくれて良かったよ」
そう言う彼の顔を見つめていた。
「あの子は五年前に受け持ってた子のお姉ちゃんなんです。確か看護師になりたいって今看護大に通ってて、だから本当に良かった。丸山さんありがとうって心から思ってます」
そう言うと彼は照れたように「女の子が何もされなくてよかったよ」と頷いた。
「ゴミがついてるから、ちょっとじっとしてて下さい」
彼の顔の頬ぼねの傷付近についた木くずのゴミをとろうとハンカチの角でそっとゴミを払っていた。私も結構身長ある方なんだけども、丸山さんは顔の位置が高い。
「丸山さんって背高いですね」
「亜紀ちゃん170ないから、キスする時大変だよ」
「こんな所で何言ってんの、もう」
私が彼と目を合わせて笑うと
「山浦先生」
誰かに名前を呼ばれた。後ろを振り向くと、役場の斎藤君が山の上村と胸元に大きく書かれたウインドブレーカーを着て私達の少し後ろに立っていた。
スマホを見ると警察に電話をしてから十分、一番近い交番から十五分、あと5分待ってられる?いや待ってられない。丸山さん殺されちゃうかもしれない。
前何かの映像で絶体絶命のピンチで車で犯人に体当たりし、事なきを得たというのを見たことがある。
最終手段だ、これしかない。
車のエンジンをかけた、すると二人の男はこちらを見て、こっちに向かって来た。
その時だった。遠くにサイレンが聞こえたその十秒後、駐車場の入り口にパトカーが見えた。
二人組の男はパトカーの姿に明らかに動揺して、ダムの方へと逃げ出した。私は車のドアを開けると丸山さんへと駆け寄った。
大の字で寝ている丸山さんに「大丈夫ですか?ねぇ丸山さん!」「まぁ、なんとか大丈夫、車の中に女の子いるからその子助けて」そう丸山さんは黒い車を指さした。
ドアが開けっぱなしの車内を覗くと茶色の髪の毛の女の子が怯えた様子で座っていた。
「大丈夫ですか?」
私がそう言うと女の子は顔を上げた、この子は確か私が五年前にこの村で初めて受け持ったクラスにいた男の子のお姉ちゃんだった。
向こうも私に気がついたようで「アキ先生、アキ先生怖かったよ」
私もその子を抱きしめて泣いた。
お巡りさんが顔を出して「大丈夫?あっ、最上の一番上の娘さん、大丈夫だったか?今ご両親呼んだがるから」
と言いまたどこかに行ってしまった。
しばらくすると応援のパトカーが何台か到着したようで、女の子を婦警さんが宥めながらパトカーの中に連れて行き、私は丸山さんを探した。
さっきまで倒れていた所にはおらず、もうすでに立ち上がって違うお巡りさんに何やら事情を聞かれている様子だった。
お巡りさんがその場を離れたのを見計らって彼に近づいた。
「立てるの?」
「あったり前よ、あっこれから警察署で事情聴取だってよ、アキちゃんも」
「まぁそうだよね。あの男二人は?」
遠くでサイレンが鳴り響いている。パトカーが何台も入ってくるのが見えた。
「ダムのとこに逃げてったけど、お巡りさん達が今追いかけてった。って次から次へとパトカー来るけど、大丈夫なの?署全員来るの?他に通報あったらどうするの?」
「心配しなくても、そんなに事件起きないから。怪我大丈夫ですか?痛くないかな?」
丸山さんの頬ぼねのあたりの内出血をじっと見た。
「こんなもんメイクでして貰えば大丈夫」
「やっぱり男の人もメイクするんですか?」「俺も最初びっくりしたけど、なんか塗られる。顔色が違うんだそうだ」
「顔以外は大丈夫ですか?」
「うーん、打撲だけだから大丈夫だ。あーあんなに得意気に出て行ったのにアキちゃんにかっこ悪いとこ見せちゃったな」
「そんなことないです、かっこよかったです」
私の心からの言葉だった。
「でも俺一方的にやられっぱなしだったんだけど、あーこんなことならパンチングマシーンの木村君みたいに中高校時代は喧嘩に明け暮れてれば良かった。そしたら一髪ko、キャーって言われてたのかもしれないのに」
彼が自分の背中を押さえながら言った。さっき蹴られてたから凄く痛いのだろう。
「丸山さんちょっと背中見せて下さい」
「亜紀ちゃん、こんな所で俺の裸みたいなんて、俺外でする性癖はないから。亜紀ちゃんの部屋戻ってさ」
丸山さんが色々言っていたのを無視して彼のTシャツをめくると背中に大きな内出血の痕が見えた。
「凄く内出血してる、これ仰向けに寝たら痛いかも」
「じゃあ俺が仰向けにならないようにやろうかか。最初は普通に俺が上に」
「もう何言ってるんですか、今から警察署行くんでしょ?」
そう笑うと丸山さんも「わかってるけどさ」と笑った。
「あー昔キックボクシングとかやってれば良かった。木村君みたいに喧嘩に強い男になりたい」
彼はそう叫んだのを見て笑みが溢れた。
「そんな丸山さんは見たくないです」
「俺、木村君と仲いいんだよ」と何故か得意気に言った。
「そうなんですね、木村さんってヤンキーキャラだから、何か全然タイプ違いそうなのに意外な交友関係」
「だろ?事務所も同じで若い時から一緒だったから」
「へぇ、同じ釜の飯を食べた仲間ですね」
「そうだよ、あーおれ喧嘩弱い」
彼はそう言って強く目を閉じて首を振った。
「喧嘩なんか弱くていいです、私怖くて足がすくんで、助けに行かなきゃって思ったのに全然動けなかったから」
「亜紀ちゃんが来たら余計に厄介だから、車にいてくれて良かったよ」
そう言う彼の顔を見つめていた。
「あの子は五年前に受け持ってた子のお姉ちゃんなんです。確か看護師になりたいって今看護大に通ってて、だから本当に良かった。丸山さんありがとうって心から思ってます」
そう言うと彼は照れたように「女の子が何もされなくてよかったよ」と頷いた。
「ゴミがついてるから、ちょっとじっとしてて下さい」
彼の顔の頬ぼねの傷付近についた木くずのゴミをとろうとハンカチの角でそっとゴミを払っていた。私も結構身長ある方なんだけども、丸山さんは顔の位置が高い。
「丸山さんって背高いですね」
「亜紀ちゃん170ないから、キスする時大変だよ」
「こんな所で何言ってんの、もう」
私が彼と目を合わせて笑うと
「山浦先生」
誰かに名前を呼ばれた。後ろを振り向くと、役場の斎藤君が山の上村と胸元に大きく書かれたウインドブレーカーを着て私達の少し後ろに立っていた。