第324話 逃げる男
文字数 1,385文字
美子ちゃんが病室からひょっこり顔を出し「お兄さん、わたしも同じ気持ち」と智を睨んだ。
「美子ちゃん歩いても大丈夫なの?」
「お姉さん心配してくれて有難う、ここ十年で一番の怒りでアドレナリンが出てるから何か平気」
美子ちゃんは智を「すぐそうやって調子乗って」と睨んだ。
智は怪しい手つきで赤ちゃんを抱っこしながら叫んだ。
「なんで美子までそんなこと言うの?姉ちゃん助けて」
「智、ぜんぶ解決したような顔してるけど、あと一つしなきゃいけない事ある」
「えっ何?」「今から美子ちゃんのお家行くから」「何で何で何で」
「何でじゃないでしょ?昔から言ってるじゃん。迷惑をかけたらごめんなさい、何かしてもらったありがとうってちゃんと言いなさいって」
智は不思議な顔をした。
「俺別に迷惑かけてないよ」
赤ちゃんを持っていなかったらコイツを蹴り飛ばしていた。
「あんたの代わりに出産に付き添ってくれたの美子ちゃんのお母さんでしょ?朝早くから仕事の合間を縫って私に連絡くれてたのお父さんでしょ?自分の娘の旦那が出産の時に逃げるなんて、どんなにあんたに失望したと思ってんの?」
智は赤ちゃんを抱っこしているので控えめに「ごめんなさーい」と叫んだ。
「お姉さんいいよ、うちの親には私から言っておくから」
「ううん、もうこれで最後だから。私が智の世話するのもこれで最後。いつまでも誰かが守ってくれるってもうこれで最後」
「姉ちゃん何でそんな酷いこと言うんだよ、俺のこと守ってくれよ」
重ちゃんが智を真剣に見据えた。
「姉ちゃんには姉ちゃんの人生がある。いいかお前は父親だ。今度からは自分が自分の家族を守っていかなくちゃいけねぇんだよ」
智は満面の笑みでこう答えた。
「わかったよ、兄ちゃん。俺この子のこと守って行くよ。俺父親だから」と嬉しそうに言った。
美子ちゃんが「軽過ぎる」と言ったのでみんなで笑った。
あんまり長居しても悪いので五分ほどで病室を後にすると、病院の正面玄関まで三人で歩いた。
病院の受付が見えてきた頃重ちゃんが言った。
「来週の金土は泊まりがけの仕事なんだけど、日曜休み取れたから、土曜の夕方から来てて」
「そうなんだ、久しぶりにゆっくりできるね」と二人で目を合わせた。
「折角だからどこか出かけようか」
「国立博物館行きたいな、武田信玄展がやってるらしいし」
彼は優しい顔で「いいよ」と微笑んだ。
何故だか智が「あーそういえば俺は来週の日曜仕事なんだよ」と会話に参加してきた。
「何でお前も来るつもりなんだよ」
重ちゃんは呆れたように笑った。
私の携帯にまた非通知から電話がかかってきた。
「また非通知からかかってきた」と叫ぶと重ちゃんが智に「ちょっと出てみろ」と渡した。
何も分かっていない智は数秒後、腰を抜かして悲鳴をあげた。
「怖いし携帯変えないと駄目かな」
「そうした方がいいんじゃない、やっぱり誰が聞いても怖いからな」
大袈裟にガタガタ震える智を見て笑った。
重ちゃんは今から何かの打ち合わせがあるらしい。タクシーに乗って行くのを見送ると、ふとさっきの出来事を思い出す。
あれ本当に結婚指輪持ってたのかな、でも散々持ち上げた挙句に「本当に持ってると思った?」とか言われそう。
でもあの優しい顔は、期待していいのだろうか。
とにかく来週ちゃんと話をしよう。
タクシーに乗ろうとしている智を引き摺って美子ちゃんの家に向かうべく地下鉄の駅に向かった。
「美子ちゃん歩いても大丈夫なの?」
「お姉さん心配してくれて有難う、ここ十年で一番の怒りでアドレナリンが出てるから何か平気」
美子ちゃんは智を「すぐそうやって調子乗って」と睨んだ。
智は怪しい手つきで赤ちゃんを抱っこしながら叫んだ。
「なんで美子までそんなこと言うの?姉ちゃん助けて」
「智、ぜんぶ解決したような顔してるけど、あと一つしなきゃいけない事ある」
「えっ何?」「今から美子ちゃんのお家行くから」「何で何で何で」
「何でじゃないでしょ?昔から言ってるじゃん。迷惑をかけたらごめんなさい、何かしてもらったありがとうってちゃんと言いなさいって」
智は不思議な顔をした。
「俺別に迷惑かけてないよ」
赤ちゃんを持っていなかったらコイツを蹴り飛ばしていた。
「あんたの代わりに出産に付き添ってくれたの美子ちゃんのお母さんでしょ?朝早くから仕事の合間を縫って私に連絡くれてたのお父さんでしょ?自分の娘の旦那が出産の時に逃げるなんて、どんなにあんたに失望したと思ってんの?」
智は赤ちゃんを抱っこしているので控えめに「ごめんなさーい」と叫んだ。
「お姉さんいいよ、うちの親には私から言っておくから」
「ううん、もうこれで最後だから。私が智の世話するのもこれで最後。いつまでも誰かが守ってくれるってもうこれで最後」
「姉ちゃん何でそんな酷いこと言うんだよ、俺のこと守ってくれよ」
重ちゃんが智を真剣に見据えた。
「姉ちゃんには姉ちゃんの人生がある。いいかお前は父親だ。今度からは自分が自分の家族を守っていかなくちゃいけねぇんだよ」
智は満面の笑みでこう答えた。
「わかったよ、兄ちゃん。俺この子のこと守って行くよ。俺父親だから」と嬉しそうに言った。
美子ちゃんが「軽過ぎる」と言ったのでみんなで笑った。
あんまり長居しても悪いので五分ほどで病室を後にすると、病院の正面玄関まで三人で歩いた。
病院の受付が見えてきた頃重ちゃんが言った。
「来週の金土は泊まりがけの仕事なんだけど、日曜休み取れたから、土曜の夕方から来てて」
「そうなんだ、久しぶりにゆっくりできるね」と二人で目を合わせた。
「折角だからどこか出かけようか」
「国立博物館行きたいな、武田信玄展がやってるらしいし」
彼は優しい顔で「いいよ」と微笑んだ。
何故だか智が「あーそういえば俺は来週の日曜仕事なんだよ」と会話に参加してきた。
「何でお前も来るつもりなんだよ」
重ちゃんは呆れたように笑った。
私の携帯にまた非通知から電話がかかってきた。
「また非通知からかかってきた」と叫ぶと重ちゃんが智に「ちょっと出てみろ」と渡した。
何も分かっていない智は数秒後、腰を抜かして悲鳴をあげた。
「怖いし携帯変えないと駄目かな」
「そうした方がいいんじゃない、やっぱり誰が聞いても怖いからな」
大袈裟にガタガタ震える智を見て笑った。
重ちゃんは今から何かの打ち合わせがあるらしい。タクシーに乗って行くのを見送ると、ふとさっきの出来事を思い出す。
あれ本当に結婚指輪持ってたのかな、でも散々持ち上げた挙句に「本当に持ってると思った?」とか言われそう。
でもあの優しい顔は、期待していいのだろうか。
とにかく来週ちゃんと話をしよう。
タクシーに乗ろうとしている智を引き摺って美子ちゃんの家に向かうべく地下鉄の駅に向かった。