第316話 逃げる男
文字数 1,841文字
「こんなゲームして、欲求不満なの?」
彼は至って真面目な顔でこう聞いた。
恥ずかしい、恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい。
口をパクパクさせて何も言えないでいると、彼はまた理不尽な嫉妬を振りかざした。
「他の男の裸見るなんてありえないだろ?」
「……いやだってこれアニメキャラでしょ?」
「そんなの関係ねぇだろ?俺の裸だって最初は動揺して見ようとしなかったのに、なんでこんなムキムキなアニメキャラの裸は見ようと思うわけ?こういう筋肉バカの方が好きなの?」
彼が五分ぐらいずっとグチグチ言っているのを「たまたま、たかちゃんが18禁のソフトを初めて持って来たの!」「別にそこまで見たかった訳じゃない!」「マッチョ好きじゃないって、アニメキャラでしょ?」と反論していたけれど焼け石に水だ。
劣勢の中私は一発逆転の凄い反論を思いついてしまった。
「自分だってアダルト動画毎日寝る前に見てるよね?この間四つの動画配信サイト有料会員になったって自慢してたでしょ?自分の方が他の男の人も女の人の裸も見てるじゃん。
でも私は全然気にならない、重ちゃんの趣味だから好きなだけ見ればいいと思ってるよ」
心が広い風を装うと彼が一気にトーンダウンした。流石に自分に分がないと思ったのだろう。彼が小さな声でこう呟いた。
「……アニメでも二度と見ないでね」
「あははっ、自分の趣味って人にとやかく言われたくないよね」
そう言って彼を見て笑うと私の携帯が鳴った。見るとまた非通知設定からだった。
「また、かかってきた」
私がそう大声を出すと彼が「誰から?」と聞いた。
「宗教団体から、さっきもかかってきたの」
「俺が出てやるよ」と彼が私の携帯を耳に当てると数秒後「わわっああ」と声を出した。
さっきと同じ様にお経が聞こえ女性の声で「絶対許さない」と叫ばれ切られたらしい。
彼はやたらと「大丈夫かな」と心配して「戸締りしっかりしろ」と言っている。
「うん、続く様なら携帯変えるよ」
彼が心配の余り無茶苦茶な提案をする。
「そうだ、俺の部屋で一緒に住もうか」
思わず乾いた笑いが出る。
「どうやって毎朝ここまで通うの?」
「仕事辞めろ、俺が養ってやるから」
また乾いた笑いが出た、これまたプロポーズじゃないからって付け足されるパターンじゃん。
「大丈夫だって、塚田君が元担任だったけれど、携帯変えれば実害はないっていってたからね」
彼が機嫌悪そうに黙り込んだ。
今塚田君の話は鬼門だった、というか私この前は別れ話してたんだけど。今こそもう一回別れ話をしなければならない。
そう決意して「あのさ、この間のことなんだけど」と切り出した。
彼はそんな私の雰囲気を察してか「そうだ、サリー買ってきたんだ」と明るく呟いた。
いかにもインドっぽいオリエンタルな象が描いてある袋を渡され見てみると、中には水色の綺麗なサリーが入っていた。
袋から取り出すとベッドの上に広げた。生地が既にラメ入りでキラキラし、昔の貴族みたいな上品なゴールドのレースがたくさんついている。
「綺麗、すごく綺麗」とうっとりすると「着てみれば?」と言われた。
洗面所で着替えてノリノリで出てくると彼に「凄く似合うよ、綺麗だね」と褒められた。
単純な私はその一言でまた喜んだ。
そして機嫌がいいまま私はいつもの生活を送り、気がついた時には彼に抱きしめられながら寝ていた。
私って本当に単細胞の塊だ。
その翌朝七時のことだった。二人で寝ていると私のスマホに知らない番号からかかってきた。
保護者かと思い慌ててベッドから出て電話に出た。
「もしもし、山浦です」「アキさんですか?朝早くに申し訳ありません。私新山です、美子の父親です」
「いつもお世話になっています。もしかして生まれました?」
智からかかってこないことに、疑問を覚えながらも話を続ける。
「後五時間ってところかな」
美子ちゃんのお父さんも産婦人科医だ。流石に自分の娘は私情が入って冷静になれないからと違うお医者さんの所で産むそうだ。
「そうなんですね、早くお孫さんに会いたいですね」
「それがちょっと困ったことになって、実は智君の行方がわからなくなってしまって」
「えっ?……どういうことですか?」
「いや、智君が昨日から家にちょうど泊まってくれてる時に陣痛きたんだけど、怖くなったみたいで「俺は父親になんかなりたくない」ってどこかに行っちゃったんだよ」
目の前が真っ暗になった。確かに昔からそういう大事な時に怖くなって逃げるどうしようもない奴だった、歳を取って少しはまともなったと信じていたのに。
彼は至って真面目な顔でこう聞いた。
恥ずかしい、恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい。
口をパクパクさせて何も言えないでいると、彼はまた理不尽な嫉妬を振りかざした。
「他の男の裸見るなんてありえないだろ?」
「……いやだってこれアニメキャラでしょ?」
「そんなの関係ねぇだろ?俺の裸だって最初は動揺して見ようとしなかったのに、なんでこんなムキムキなアニメキャラの裸は見ようと思うわけ?こういう筋肉バカの方が好きなの?」
彼が五分ぐらいずっとグチグチ言っているのを「たまたま、たかちゃんが18禁のソフトを初めて持って来たの!」「別にそこまで見たかった訳じゃない!」「マッチョ好きじゃないって、アニメキャラでしょ?」と反論していたけれど焼け石に水だ。
劣勢の中私は一発逆転の凄い反論を思いついてしまった。
「自分だってアダルト動画毎日寝る前に見てるよね?この間四つの動画配信サイト有料会員になったって自慢してたでしょ?自分の方が他の男の人も女の人の裸も見てるじゃん。
でも私は全然気にならない、重ちゃんの趣味だから好きなだけ見ればいいと思ってるよ」
心が広い風を装うと彼が一気にトーンダウンした。流石に自分に分がないと思ったのだろう。彼が小さな声でこう呟いた。
「……アニメでも二度と見ないでね」
「あははっ、自分の趣味って人にとやかく言われたくないよね」
そう言って彼を見て笑うと私の携帯が鳴った。見るとまた非通知設定からだった。
「また、かかってきた」
私がそう大声を出すと彼が「誰から?」と聞いた。
「宗教団体から、さっきもかかってきたの」
「俺が出てやるよ」と彼が私の携帯を耳に当てると数秒後「わわっああ」と声を出した。
さっきと同じ様にお経が聞こえ女性の声で「絶対許さない」と叫ばれ切られたらしい。
彼はやたらと「大丈夫かな」と心配して「戸締りしっかりしろ」と言っている。
「うん、続く様なら携帯変えるよ」
彼が心配の余り無茶苦茶な提案をする。
「そうだ、俺の部屋で一緒に住もうか」
思わず乾いた笑いが出る。
「どうやって毎朝ここまで通うの?」
「仕事辞めろ、俺が養ってやるから」
また乾いた笑いが出た、これまたプロポーズじゃないからって付け足されるパターンじゃん。
「大丈夫だって、塚田君が元担任だったけれど、携帯変えれば実害はないっていってたからね」
彼が機嫌悪そうに黙り込んだ。
今塚田君の話は鬼門だった、というか私この前は別れ話してたんだけど。今こそもう一回別れ話をしなければならない。
そう決意して「あのさ、この間のことなんだけど」と切り出した。
彼はそんな私の雰囲気を察してか「そうだ、サリー買ってきたんだ」と明るく呟いた。
いかにもインドっぽいオリエンタルな象が描いてある袋を渡され見てみると、中には水色の綺麗なサリーが入っていた。
袋から取り出すとベッドの上に広げた。生地が既にラメ入りでキラキラし、昔の貴族みたいな上品なゴールドのレースがたくさんついている。
「綺麗、すごく綺麗」とうっとりすると「着てみれば?」と言われた。
洗面所で着替えてノリノリで出てくると彼に「凄く似合うよ、綺麗だね」と褒められた。
単純な私はその一言でまた喜んだ。
そして機嫌がいいまま私はいつもの生活を送り、気がついた時には彼に抱きしめられながら寝ていた。
私って本当に単細胞の塊だ。
その翌朝七時のことだった。二人で寝ていると私のスマホに知らない番号からかかってきた。
保護者かと思い慌ててベッドから出て電話に出た。
「もしもし、山浦です」「アキさんですか?朝早くに申し訳ありません。私新山です、美子の父親です」
「いつもお世話になっています。もしかして生まれました?」
智からかかってこないことに、疑問を覚えながらも話を続ける。
「後五時間ってところかな」
美子ちゃんのお父さんも産婦人科医だ。流石に自分の娘は私情が入って冷静になれないからと違うお医者さんの所で産むそうだ。
「そうなんですね、早くお孫さんに会いたいですね」
「それがちょっと困ったことになって、実は智君の行方がわからなくなってしまって」
「えっ?……どういうことですか?」
「いや、智君が昨日から家にちょうど泊まってくれてる時に陣痛きたんだけど、怖くなったみたいで「俺は父親になんかなりたくない」ってどこかに行っちゃったんだよ」
目の前が真っ暗になった。確かに昔からそういう大事な時に怖くなって逃げるどうしようもない奴だった、歳を取って少しはまともなったと信じていたのに。