第301話 同窓会

文字数 979文字

酔っ払った春子が陽気に叫んだ。
「亜紀、今みんなで藤籠旅館の話してたんだけど、藤籠旅館の例の話して」

藤籠旅館とは地元で有名な老舗旅館だ。その跡取り息子は私からさーっと逃げてった男No.4に分類されている。

旦那さんの坂本君も「何、何知りたい」と場を盛り上げ、みんながワクワクしながら待っている。

ここまで期待されたら仕方ない、大昔のことだし。

「だから、七、八年前に藤籠旅館の息子さんと知り合うことがあって、何回かデートしたの。そしたらある日の土曜日に家に藤籠旅館の車が来てさ、半分拉致される形で旅館に連れてかれて、有無を言わさず強制的に女将修行させられたの。

その日の夜、ようやく解放されて泊まれって言われた場所が息子さんの部屋で布団一つしか敷いてなくてさ、息子さんが必死に謝る中、逃走したら三日後に相手からもう会えないって電話かかってきた」

お酒を飲んでいることあり、みんな笑っている

「あの人元気にしてるかな?」
そう呟くと塚田君が衝撃の情報を教えてくれた。

「藤籠旅館って先月もう閉めたってニュースでやってたな」

「えっ!!……そうなんだ。あの息子さん優しくて中々のイケメンだったのにな。優しすぎてお母さんには一切逆らえてなかったけど」

そう言って一人で笑った。

春子はかなり酔っ払っている。旦那さんもいるからいいのだろう。

「ねぇ亜紀、怪しい男とは別れるんだよね?」
「……別れたくないけれど、そうしなきゃ自分の身が滅ぶだけだしね」

「じゃあ別れたら塚田君と付き合えばいいじゃん」

塚田君は気まずそうにビールを飲んだ。

「春子飲み過ぎ!やめてよ塚田くんの迷惑だって!」

そう言って春子を静止した。坂本君が調子に乗って塚田君の物真似をやり始めた。

「迷惑なんかじゃないよ。ずっと山浦さんを好きだったんだ」

この調子乗りの酔っ払い夫婦は……本当にもう。

「でも塚田君は22歳の彼女とかいそう、本当に悪いよ」

そう言って笑うと、塚田君は手に持っていたビールジョッキを机に置いた。

「彼女いないから、山浦さん、その怪しい男と別れて俺と結婚しようか」と何故か淡々と言った。        

「ヒューいいじゃん!いいじゃん!」そこにいた全員が囃し立てた。

……塚田君酔っ払い過ぎでしょ?

十何年前に卒業式の後の飲み会で、「同じ学校になったら付き合おう」と言われた。

塚田君って酔っ払うとこんなノリになるのだろうか。
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