第222話 伊豆の踊子
文字数 1,622文字
部屋とは違う階にある大浴場の露天風呂にいた。夜の海は静かで水面に三日月が写っている。
彼の口ぶりからして普通の女の人はあそこで一緒にお風呂に入るのだろう。でもどこからどう考えても私には無理だ。
ちゃんと彼に今まで誰とも付き合ったことがないし、体の関係も持ったことがないと伝えておけばよかった。
自分のつまらないプライドや見栄の為にこれだけ彼がやってくれたのを無駄にしてるし悲しませてる。
本当に最低だ。
彼にちゃんと謝って正直に話そう。
そう思ってお風呂から出ると、大浴場の受付で貸して貰った浴衣を着た。
廊下を歩いていると携帯の存在を思い出し、見ると彼から着信が何件かとメールが届いていた。
「何処にいますか?俺が全部悪いです。部屋で待ってます」
何故だかまた泣けた。
浴衣の裾で涙をふくと部屋まで急いだ。部屋のドアをそっと開けるとソファに寝転んだ彼が起き上がった。
「亜紀ごめん、俺が全部悪い。あんなにほっとかれたのに、いきなり帰ってきて脱げって酷すぎる。本当にごめんなさい」
彼は深々と頭を下げた。
彼の隣に座るとソファが柔らかすぎて少し沈んだ。
「違うの、私が悪いの!話を聞いて!好きだから、重ちゃんが私のこと好きだって思う気持ちの何倍も好きなの。二人でなら何したっていいから。でもちょっと理由があって脱げなくて」
彼が訝し気な顔で聞き返した。
「理由?」
「……言わなくちゃいけない事があって、びっくりしないで聴いて」
彼は深刻な顔で頷いた。
「私実はしげちゃん以外に今まで誰とも付き合ったことないし、だから体の関係も持ったことないの」
彼は唖然と私を見ている。呆れ返っているのだろうか。
「だからいきなり脱げって言われたらハードルが高すぎて、せめてもっと甘い言葉かけて色々誤魔化してくれたら良かったんだけど」
そう言い終わった瞬間彼は呆気にとられたような何とも言えない顔をしていた。
「……俺ツッコミを担当してるけど、今あまりの衝撃でツッコむのを忘れた、時をもどそう」
そういうと彼は大きく息を吸った。
「なんでやねん!そんなことわかっとるわ!」
生まれも育ちも東京生まれの彼がエセ関西弁で突っ込んだ。イントネーションが下手くそすぎて関西の人が聞いたら「馬鹿にしてるのか」と怒り狂うに違いない。
「えっ、なんでわかってるの?そんなこと一つも言ったことないよね」
「と意味不明な供述を繰り返しており」
彼が急に人の事をおちょくり出したので腹が立った、私は真剣に悩んでいたのに。
彼はまだ話しを続ける
「だから、軽くキスしただけであんなに固まってる人初めて見たから。ちょっと舌入れただけで、何これどうやってやるの?って顔に書いてあった人誰なの?この間途中までした時にどうしよう?どうしよう?って心の声が俺まで聞こえてきてたんだけど、どうして今まで俺がわかってないと思ってたんだよ!」
「……エスパー?」
私が呟くと彼は呆れ果てたように私を見ていた。そしてため息を一つつくとこう言った。
「だからこそ余計に俺が悪いだろ、ただでさえ亜紀は心配性で色んなこと勝手に思い詰めるのにさ、そりゃ不安な顔して夕飯食べるよ。でも俺のこと信じてここまで来てくれてるのに何であんなこと言ったんだろう」
何も言えずに彼を見つめていた。
「それにいきなり亜紀に脱げって言っても脱ぐわけないから。俺が一番良くわかってるのにな。何言おうかどうしようか考えてきてたのに、何であんな最悪な口説き方したんだ」
そう言って彼は天井を見上げた。
「やっぱり神は居るんだよ、俺が適当な女口説きまくって遊びまくったから、本当に大事な時にやらかすんだ。俺への罰だ」
何と言ったらいいかわからなかったのでいつものセリフで相槌を打つ。
「意外と信心深いんだね」
すると彼もいつものセリフを返した。
「俺いい家のぼっちゃんだから」
どうやら彼は全てをわかっていたらしい。それ以上何と返していいのかわからず黙り込んだ。この部屋はテレビがないから喋らないと静かさがよく目立つ。
彼の口ぶりからして普通の女の人はあそこで一緒にお風呂に入るのだろう。でもどこからどう考えても私には無理だ。
ちゃんと彼に今まで誰とも付き合ったことがないし、体の関係も持ったことがないと伝えておけばよかった。
自分のつまらないプライドや見栄の為にこれだけ彼がやってくれたのを無駄にしてるし悲しませてる。
本当に最低だ。
彼にちゃんと謝って正直に話そう。
そう思ってお風呂から出ると、大浴場の受付で貸して貰った浴衣を着た。
廊下を歩いていると携帯の存在を思い出し、見ると彼から着信が何件かとメールが届いていた。
「何処にいますか?俺が全部悪いです。部屋で待ってます」
何故だかまた泣けた。
浴衣の裾で涙をふくと部屋まで急いだ。部屋のドアをそっと開けるとソファに寝転んだ彼が起き上がった。
「亜紀ごめん、俺が全部悪い。あんなにほっとかれたのに、いきなり帰ってきて脱げって酷すぎる。本当にごめんなさい」
彼は深々と頭を下げた。
彼の隣に座るとソファが柔らかすぎて少し沈んだ。
「違うの、私が悪いの!話を聞いて!好きだから、重ちゃんが私のこと好きだって思う気持ちの何倍も好きなの。二人でなら何したっていいから。でもちょっと理由があって脱げなくて」
彼が訝し気な顔で聞き返した。
「理由?」
「……言わなくちゃいけない事があって、びっくりしないで聴いて」
彼は深刻な顔で頷いた。
「私実はしげちゃん以外に今まで誰とも付き合ったことないし、だから体の関係も持ったことないの」
彼は唖然と私を見ている。呆れ返っているのだろうか。
「だからいきなり脱げって言われたらハードルが高すぎて、せめてもっと甘い言葉かけて色々誤魔化してくれたら良かったんだけど」
そう言い終わった瞬間彼は呆気にとられたような何とも言えない顔をしていた。
「……俺ツッコミを担当してるけど、今あまりの衝撃でツッコむのを忘れた、時をもどそう」
そういうと彼は大きく息を吸った。
「なんでやねん!そんなことわかっとるわ!」
生まれも育ちも東京生まれの彼がエセ関西弁で突っ込んだ。イントネーションが下手くそすぎて関西の人が聞いたら「馬鹿にしてるのか」と怒り狂うに違いない。
「えっ、なんでわかってるの?そんなこと一つも言ったことないよね」
「と意味不明な供述を繰り返しており」
彼が急に人の事をおちょくり出したので腹が立った、私は真剣に悩んでいたのに。
彼はまだ話しを続ける
「だから、軽くキスしただけであんなに固まってる人初めて見たから。ちょっと舌入れただけで、何これどうやってやるの?って顔に書いてあった人誰なの?この間途中までした時にどうしよう?どうしよう?って心の声が俺まで聞こえてきてたんだけど、どうして今まで俺がわかってないと思ってたんだよ!」
「……エスパー?」
私が呟くと彼は呆れ果てたように私を見ていた。そしてため息を一つつくとこう言った。
「だからこそ余計に俺が悪いだろ、ただでさえ亜紀は心配性で色んなこと勝手に思い詰めるのにさ、そりゃ不安な顔して夕飯食べるよ。でも俺のこと信じてここまで来てくれてるのに何であんなこと言ったんだろう」
何も言えずに彼を見つめていた。
「それにいきなり亜紀に脱げって言っても脱ぐわけないから。俺が一番良くわかってるのにな。何言おうかどうしようか考えてきてたのに、何であんな最悪な口説き方したんだ」
そう言って彼は天井を見上げた。
「やっぱり神は居るんだよ、俺が適当な女口説きまくって遊びまくったから、本当に大事な時にやらかすんだ。俺への罰だ」
何と言ったらいいかわからなかったのでいつものセリフで相槌を打つ。
「意外と信心深いんだね」
すると彼もいつものセリフを返した。
「俺いい家のぼっちゃんだから」
どうやら彼は全てをわかっていたらしい。それ以上何と返していいのかわからず黙り込んだ。この部屋はテレビがないから喋らないと静かさがよく目立つ。