第119話 勿忘草
文字数 1,673文字
車で15分程の新幹線駅の駐車場に着くと、「兄ちゃんともっと一緒にいたい」と騒ぐ智を乗ってきてた車に無理に乗せ、なんとか帰らせた。
智の車しか見当たらない駅前の交差点の信号が赤から青に変わって車が見えなくなるまで見送る。
「やっと帰ったね」と思わず口に出ると彼は「扱い酷いな」と笑った。
二人で駅に向かって歩いた。休日の真昼間だからなのか、それとも元から人がいないのか新幹線駅の駅前なのに一人も通行人を見かけない。
新幹線駅の背後に見える遠くの山並みは八合目まで雪化粧が始まっている。
「今年っていろんな出来事がありすぎて、一つ一つのことに喜んだり悲しんだりしてる暇がない、今日は健が従兄弟だってわかったし、今まで本当に何にもなかったのに、何で神様は今年の後半に色々詰め込んでくるんだろ」
「一番嬉しい出来事はカッコいい彼氏ができたことだろ?」
「それ自分で言うの?」と笑うと「事実だから、現におばちゃんに俳優さんみたいって言われてたから」と彼は得意気になった。
二人で駅に向かって歩幅を合わせてゆっくり歩く、十一月の冷たい風が頬を気持ちよく冷やしてくれた。
「俺は25歳の時が一番激動だったよ、親父は突然死ぬし、女に別の男と結婚されるし、北澤と出会ってコンビ組んだら評価されて、初めてテレビ局に入れたし」
「今から17年前?」「そう、もうそんなになるんだな、亜紀も17年前大変だっただろ?」
時々こうやって私のことを呼び捨てにする、全部そうしてくれていいのに。
「十七年前?えっと……18歳…高3から大学一年か。あー大変だった。あれからもう十七年も経つの?嘘でしょ?」
「もう十七年だぞ」
「この十七年私何してたんだろ……あの頃と比べて今誇れることと言ったら、ちゃんと税金納めてるってことだけ」
そう自虐的に笑うと「俺だってそうだよ」と彼も笑った。ふと昔の彼についてもっと聞いてみたくなった。
「しげちゃんは35歳の時って何してたの?」
「35か、もうあんまり覚えてないけどイケメンってもてはやされて好きなだけ女遊びしてた」
「……充実してるね、じゃあ40歳は何してた?」
「40歳は素人に手を出すのやめて、店行きまくってた。もうみんなあの事件のことだいたい忘れてくれて、バッシングも少なくなってほっとしてた」
「そっか、40になった時ってやっぱりショックだった?」
「ショックっていうか俺もうおっさんじゃんって思ったよ、何か疲れやすいし、白髪も一気に増えたし、店も毎日行きたかったのに週二でいいやってなったし」
「店の情報はいらないから、でもやっぱりそうなんだ。急に老化するんだ、こわっ!」
背筋がゾッと寒くなった。
「じゃあ亜紀ちゃんは40になったら何してると思う?」
「怖いこと言わないでよ、40…あと5年後、絶対に誰かと結婚して子供産んで育ててる。これだけは絶対に何があっても譲れない」
迫りくる恐怖に怯えながら首をブンブンとふった。
「亜紀ちゃん子供好きだもんな」と彼は言いながら私の手を繋いだ。
彼が揶揄うようにこう言った。
「子供欲しいならもうギリギリの年齢だけど、今まで何してたの?」
「ギリギリって言うな!だからちょっと婚活して、後はボーッとしてたらいつの間にか35歳になってた」
「子供が欲しい情熱に行動が伴ってないよ」と彼はまた笑った。
「早く結婚しなきゃ子供産めないってわかってはいたんだけど、完璧主義で潔癖症だしお父さんあんなんだったから「好きじゃないけどいい人だから、とにかく結婚しよう、そのうち好きになるから」ができなかった」
「じゃあ心から好きだって思える彼氏ができて良かったな」と彼が言うので何も考えずに素直に「うん」と頷いた。
ちょっと待てよ、私が欲しいの彼氏じゃないんだけどな。しげちゃんは結婚する気ないじゃん、子供も好きじゃないじゃんと心の中で彼に突っ込んだ。
そんな事口に出せないけれど。
風が吹き、落ち葉がロータリーに舞い上がった。
智の車しか見当たらない駅前の交差点の信号が赤から青に変わって車が見えなくなるまで見送る。
「やっと帰ったね」と思わず口に出ると彼は「扱い酷いな」と笑った。
二人で駅に向かって歩いた。休日の真昼間だからなのか、それとも元から人がいないのか新幹線駅の駅前なのに一人も通行人を見かけない。
新幹線駅の背後に見える遠くの山並みは八合目まで雪化粧が始まっている。
「今年っていろんな出来事がありすぎて、一つ一つのことに喜んだり悲しんだりしてる暇がない、今日は健が従兄弟だってわかったし、今まで本当に何にもなかったのに、何で神様は今年の後半に色々詰め込んでくるんだろ」
「一番嬉しい出来事はカッコいい彼氏ができたことだろ?」
「それ自分で言うの?」と笑うと「事実だから、現におばちゃんに俳優さんみたいって言われてたから」と彼は得意気になった。
二人で駅に向かって歩幅を合わせてゆっくり歩く、十一月の冷たい風が頬を気持ちよく冷やしてくれた。
「俺は25歳の時が一番激動だったよ、親父は突然死ぬし、女に別の男と結婚されるし、北澤と出会ってコンビ組んだら評価されて、初めてテレビ局に入れたし」
「今から17年前?」「そう、もうそんなになるんだな、亜紀も17年前大変だっただろ?」
時々こうやって私のことを呼び捨てにする、全部そうしてくれていいのに。
「十七年前?えっと……18歳…高3から大学一年か。あー大変だった。あれからもう十七年も経つの?嘘でしょ?」
「もう十七年だぞ」
「この十七年私何してたんだろ……あの頃と比べて今誇れることと言ったら、ちゃんと税金納めてるってことだけ」
そう自虐的に笑うと「俺だってそうだよ」と彼も笑った。ふと昔の彼についてもっと聞いてみたくなった。
「しげちゃんは35歳の時って何してたの?」
「35か、もうあんまり覚えてないけどイケメンってもてはやされて好きなだけ女遊びしてた」
「……充実してるね、じゃあ40歳は何してた?」
「40歳は素人に手を出すのやめて、店行きまくってた。もうみんなあの事件のことだいたい忘れてくれて、バッシングも少なくなってほっとしてた」
「そっか、40になった時ってやっぱりショックだった?」
「ショックっていうか俺もうおっさんじゃんって思ったよ、何か疲れやすいし、白髪も一気に増えたし、店も毎日行きたかったのに週二でいいやってなったし」
「店の情報はいらないから、でもやっぱりそうなんだ。急に老化するんだ、こわっ!」
背筋がゾッと寒くなった。
「じゃあ亜紀ちゃんは40になったら何してると思う?」
「怖いこと言わないでよ、40…あと5年後、絶対に誰かと結婚して子供産んで育ててる。これだけは絶対に何があっても譲れない」
迫りくる恐怖に怯えながら首をブンブンとふった。
「亜紀ちゃん子供好きだもんな」と彼は言いながら私の手を繋いだ。
彼が揶揄うようにこう言った。
「子供欲しいならもうギリギリの年齢だけど、今まで何してたの?」
「ギリギリって言うな!だからちょっと婚活して、後はボーッとしてたらいつの間にか35歳になってた」
「子供が欲しい情熱に行動が伴ってないよ」と彼はまた笑った。
「早く結婚しなきゃ子供産めないってわかってはいたんだけど、完璧主義で潔癖症だしお父さんあんなんだったから「好きじゃないけどいい人だから、とにかく結婚しよう、そのうち好きになるから」ができなかった」
「じゃあ心から好きだって思える彼氏ができて良かったな」と彼が言うので何も考えずに素直に「うん」と頷いた。
ちょっと待てよ、私が欲しいの彼氏じゃないんだけどな。しげちゃんは結婚する気ないじゃん、子供も好きじゃないじゃんと心の中で彼に突っ込んだ。
そんな事口に出せないけれど。
風が吹き、落ち葉がロータリーに舞い上がった。