第116話 勿忘草
文字数 1,336文字
すぐに道路の反対車線側に見えた一軒家に車を止めた。ドアを開けて外に出ると懐かしさで胸が痛む。「姉ちゃん、あの人たちこの家売るのかな?」智が売り家という看板に手をかけた。
「もう何年も前からこの看板あるよ、都会の人がここで田舎暮らしするのはキツかったんだろうな」「だよな」と二人で顔を見合わせて笑った。
不思議そうに私達を見ている彼に気がついた。前にちらっと話したけれど、粗方の流れだけは説明しておこう。
「智と健が専門学校行く時に、私どうしてもこの地区が合わないから、みんなで高崎に引っ越そうと決めてて、この家残しといても税金かかるだけだし、どんな安い値段でもいいから誰かひきとってって探してたら、ちょうど都会のご夫妻が田舎暮らし用の家を探してて買ってくれたんだよね」
智も相槌を打った。
「そうそう、俺らの一年分の学費になったんだよね」
「専門学校って二年間行ってたんだよな?じゃあ残りの一年分の学費はどうしたの?」
「そこ聞く?」私が慌てると智が満面の笑みで
「姉ちゃんがコツコツと毎月五万を学資保険に積立してたんだよな」と言った。
「堅実だな、そりゃあ月に一万二千円しか使わない生活できるよな」と彼が笑ったので「今月は十万行くから」と言い返した。
智が急に玄関先の大きな石に片足をかけた
「姉ちゃん俺には夢がある。いつかまたこの家買い取ってここで暮らしたい。俺の原点だから」
智はそう言い終わるか否やで樺名山を仰いだ。
私は呆れて暫く何も言えない、数秒後私は口を開いた。
「何バカなこと言ってんの?もうすぐ子供生まれるのに!」
しげちゃんもとんでもないことを言い出した。
「俺が買ってやろうか?」
「流石兄ちゃん!」
「韓流ドラマの社長みたいなことしないで!」と怒ると彼はちょっとシュンとした。
「智、あんたは男だから後継ってチヤホヤされて良い記憶しかないと思うけど、ここに住んだら女は悲惨なんだよ。お母さんとおばさんの扱い見てたでしょ?ここに住んでる男達からしたら女は道具と一緒」
それでもまだ智は納得できない顔をしている。
「今だから言えるけど、私が小学生の時に爺ちゃんの弟がいきなり来てお母さんが部屋に連れ込まれそうになってたの」
「えっ!?姉ちゃんそれどうしたの?」
「私が大騒ぎしたら逃げてったんだけど、怒りが収まらなくて爺ちゃんにも言いつけに行ったし、松本の爺ちゃんの所にも電話したし、村役場も行ったし、駐在さんの所も行ったし、小学校の先生にも言ったし。そしたら爺ちゃんの弟村に住めなくなって引っ越して行ったけど、みんな腫物に触るように私とお母さんを見るようになった」
そう自虐的に笑うと「姉ちゃん」と悲しそうに智が呟いた。
「あの東京のおばさんだって何で離婚して健を置いて東京に行かなくちゃならなかったんだろう」
そう言って樺名山を見上げた。
「美子ちゃんにも同じ思いさせていいの?」
やっと智は色々と思い出したようで「いや無理、俺高崎にずっと住む」と言った。
それと同時にしげちゃんのぎょっとした顔が目に入った。あぁしまった、彼もいたこと忘れてた。
「そりゃあ高崎に引っ越すよな」と彼がポツリと呟いた。
「もう何年も前からこの看板あるよ、都会の人がここで田舎暮らしするのはキツかったんだろうな」「だよな」と二人で顔を見合わせて笑った。
不思議そうに私達を見ている彼に気がついた。前にちらっと話したけれど、粗方の流れだけは説明しておこう。
「智と健が専門学校行く時に、私どうしてもこの地区が合わないから、みんなで高崎に引っ越そうと決めてて、この家残しといても税金かかるだけだし、どんな安い値段でもいいから誰かひきとってって探してたら、ちょうど都会のご夫妻が田舎暮らし用の家を探してて買ってくれたんだよね」
智も相槌を打った。
「そうそう、俺らの一年分の学費になったんだよね」
「専門学校って二年間行ってたんだよな?じゃあ残りの一年分の学費はどうしたの?」
「そこ聞く?」私が慌てると智が満面の笑みで
「姉ちゃんがコツコツと毎月五万を学資保険に積立してたんだよな」と言った。
「堅実だな、そりゃあ月に一万二千円しか使わない生活できるよな」と彼が笑ったので「今月は十万行くから」と言い返した。
智が急に玄関先の大きな石に片足をかけた
「姉ちゃん俺には夢がある。いつかまたこの家買い取ってここで暮らしたい。俺の原点だから」
智はそう言い終わるか否やで樺名山を仰いだ。
私は呆れて暫く何も言えない、数秒後私は口を開いた。
「何バカなこと言ってんの?もうすぐ子供生まれるのに!」
しげちゃんもとんでもないことを言い出した。
「俺が買ってやろうか?」
「流石兄ちゃん!」
「韓流ドラマの社長みたいなことしないで!」と怒ると彼はちょっとシュンとした。
「智、あんたは男だから後継ってチヤホヤされて良い記憶しかないと思うけど、ここに住んだら女は悲惨なんだよ。お母さんとおばさんの扱い見てたでしょ?ここに住んでる男達からしたら女は道具と一緒」
それでもまだ智は納得できない顔をしている。
「今だから言えるけど、私が小学生の時に爺ちゃんの弟がいきなり来てお母さんが部屋に連れ込まれそうになってたの」
「えっ!?姉ちゃんそれどうしたの?」
「私が大騒ぎしたら逃げてったんだけど、怒りが収まらなくて爺ちゃんにも言いつけに行ったし、松本の爺ちゃんの所にも電話したし、村役場も行ったし、駐在さんの所も行ったし、小学校の先生にも言ったし。そしたら爺ちゃんの弟村に住めなくなって引っ越して行ったけど、みんな腫物に触るように私とお母さんを見るようになった」
そう自虐的に笑うと「姉ちゃん」と悲しそうに智が呟いた。
「あの東京のおばさんだって何で離婚して健を置いて東京に行かなくちゃならなかったんだろう」
そう言って樺名山を見上げた。
「美子ちゃんにも同じ思いさせていいの?」
やっと智は色々と思い出したようで「いや無理、俺高崎にずっと住む」と言った。
それと同時にしげちゃんのぎょっとした顔が目に入った。あぁしまった、彼もいたこと忘れてた。
「そりゃあ高崎に引っ越すよな」と彼がポツリと呟いた。