第306話 同窓会

文字数 1,693文字

「ダーツバーなんて初めて来た」と言いながら周りをキョロキョロと見渡した。薄暗い照明にオールドアメリカっぽい内装でバーカウンターでは年配のマスターがカクテルを作っている。

ダーツ一台につきテーブルが一つセットされている。ダーツを好き放題できるようだ。

隣のテーブルには留学生らしき集団がいて英語が飛び交いインターナショナルな雰囲気に圧倒される。

マスターおすすめのピンク色したカクテルを一口飲んだ。
「このお酒ジュースみたいに美味しい」

「だろ?昔からよく来るんだ。体動かすの好きだから」と塚田くんはダーツを一本手に取るとヒョイっと投げ、真ん中にささった。

「凄い!」

そう言うと彼が手を上げた。私も慌てて手を上げハイタッチした。

体育会系の喜び方だなと、根っからの根暗で運動嫌いな私は感心した。

こんな時重ちゃんならどうするだろうか、いやダーツバーなんて面倒だから行きたくないと元から否定するだろう。

そう思うとフフっ笑みが溢れた。

「山浦さんもやってみる?」ふと我に返った。「ええっ、できるかな。私運動神経ゼロだから」「大丈夫だよ、教えるよ」そう爽やかに微笑まれたらやらざるを得ない。

塚田くんの言う通りにダーツを親指と人差し指で持ち投げてみたが、的まで届かずに床に落ちてしまった。

「あっ」そう言うと「最初はこんなもんだよ」と彼は苦笑いしている。

塚田くんが「ちょっといい?」と私にダーツを持たせると真横に立ち私が持ってるダーツを一緒に持った。

凄く距離が近い、お酒が入ってるせいかドキドキしてしまう。

この人、初恋の人で四年間ずっと好きだっんだけど。

塚田くんが言う通りに投げてみると今度は的のの内側に何とか入った。

塚田君くんが手を上にあげたので戸惑いながらもハイタッチした。

しばらくダーツを投げているとマスターに「ちょっと休んだら」と声をかけられ、新しいお酒を作って貰ってカウンターで飲み直した。

「塚田君ってたらこパスタ好きなんだね。今でも覚えてるけど、一回私がバイトしてたファミレスに来たことあるでしょ?そのときも、たらこパスタ頼んでた」

「そうだったかな、あの時の注文した物まで覚えてないな」

「その当時塚田君のことかっこいいって言って人全員に「塚田君たらこパスタ頼んでたよ」って教えて回ってたの覚えてる」

「何か恥ずかしいよ」
塚田君はそう言ってビールを一口飲んだ。

隣の留学生のグループが突然歌を歌い出した。それを微笑ましく思いながら、塚田君と昔話をしていた。

ふと塚田君が私の目を見つめた。

「山浦さん、一緒にお台場行ったこと覚えてる?」
「覚えてるよ、あれから何回かお台場行ったけど塚田君とここ来たなって思い出してた」
「俺も行く度に山浦さんのこと思い出してた」

塚田君がそう言って微笑むので鼓動が早くなる。しっかりしろと自分に喝を入れる。

「あの節は本当に色々ご迷惑をおかけしました」

そう言って深々と頭を下げた。

ふとあのお台場の海辺での約束を思い出した。あの時の蒸し暑さ、潮の匂い

「また出会ったら今度は付き合おう」

一瞬あの時の気持ちに戻ってしまった自分がいる。けれどすぐに正気に戻った。

この会話はこれ以上続けてはいけない。
こうやって本当に出会った所で昔と状況は違うのだ。

「そういえば、この間佐藤先生に偶然会ったよ。お孫さん連れてオゾンでショッピングしてて、白髪でいいおじいちゃんって感じになってた」

話を逸らした、これでいいのだ。

ふと義政先生の話になった。

「義政先生はあんまり変わらないよね」
「そうだね、山浦さんは義政先生の弟さんと付き合ってるんでしょ?」

佐藤先生の話なんかしなきゃ良かった。

「あぁうん、本当に偶然なんだけどね。付き合ってる人の部屋にいたら義政先生が来たんだよ、最初驚いて声が出なかった」

塚田君は気まずい顔をしながらビールを飲んだ。

「俺もしかしてと思って、昨日ネット見たんだよ、そしたら山浦さん週刊誌に撮られてるの見つけた」


この世の終わりが来たと思った。

開きっぱなしの口をどうやって閉じるか忘れた。

塚田君にだけはあんな写真も見られたくないし、自分が本当はあんなキツイことを言う女だなんて知られたくなかった。
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