第20話 コスモ山浦

文字数 1,223文字



「亜紀先生って本好きそうなイメージだけど、あんまり読まないの?」とCDと雑誌しか置かれていない本棚を見た。

「地味で大人しく見えるからか、よくそのイメージ言われます。確かに小さい頃から本読むの好きですよ。

何故本棚に本がないかと言うと…でも私これ言ったら本好きの友達に激怒されて」

そう言ってモゴモゴしていると、彼が飄々と言った。

「捨てやすいように文庫本だけ買って、読み終わったらすぐ捨てるんだろ?」

何故か丸山さんがスラスラと私の行動を当てたので、焦った。凄く焦った。

道徳の教科書的な展開で丸山さんが神様か何かで私の悪い行動を咎めにきたのかとも思った。

焦ると私は早口で捲し立ててしまう悪い癖がある。まずいまずいと思いつつ、口は止められない。

「実はそうなんです、小学校教師として物を粗末にして、風上にも置けないことはわかってるんです。

ちゃんと古本屋さん持ってくのが模範的な行動ってわかってはいるんですけど」

「面倒なんだろ?」彼はモゴモゴしている私を見て笑っている。

「そうなんです、面倒なんです。でも言い訳二つさせて下さい。一つ目は、お風呂で読むから、もう読み終わった頃は原型を留めてないんです。

二つ目は、作者と本屋さんが潤いますようにって、本屋さんで新品買いますからって、一生懸命言い訳してますけど、これを当ててくるってことは丸山さんもそうなんじゃないんですか?」

すると丸山さんは人懐っこく笑って「バレた?俺も本読むの好きなんだけど、粗末にしてる」

「ほらやっぱり、丸山さんにしか言いませんけど、部屋に物があるの嫌いなんです。だから本が溜まっていくあの感じが嫌なんです」

「凄くわかるよ、俺もかなりの神経質だから。だからすぐ捨てる」そう言ってまた笑った。


「物があるのが嫌なら、あれ何?」彼はそう言って本棚を指差した。

そこには彫刻刀で削られた木の看板が二つかかっていた。

一つはコスモ山浦と汚い字体で荒く彫刻刀で彫られたやつで、もう一つは綺麗な宇宙の模様が丁寧に彫られている。

「あーあれは弟が高校の授業で家の看板作るって言ってて、カッコイイやつにするって張り切って作って来たのこれだったんです」
「シュールだな」

「でしょ?多分、お馬鹿だからコスモの意味解らずに彫ってたんだろうな。友達にも散々コスモ山浦って何だよって揶揄われてましたけど」

「だろうな、じゃあもう一つの絵だけのやつは?」

丸山さんが聞かれたくなかったことを聞いてきたので焦った。実の弟の他に血の繋がらない弟がもう一人いるなんて、二回会っただけの人に言えるわけない。

「あれは、違う子がコスモ山浦に合わせて作ってくれたんです。この看板ずっと実家の玄関に飾ってあったんです。

弟の友達は実家に遊びに来ることを「今日コスモ山浦する?」って言ってました。懐かしいな」
昔を思い出して懐かしい気持ちになった。
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