第5話 帽子岳の山頂で

文字数 910文字

さらに歩みを進めると周りの景色が段々と開けてきた。視界を遮っていた高い木々が無くなり、腰よりも低い木が群生している。周りを見渡せば山々が青く雄大にそびえ立っている。

遠くに帽子岳の頂が見えてきた。高山植物も沢山あり「これニシキウツギだよ」「コケモモだよ」と子供達に説明する場面も増えてきた。

丸山さんに「先生植物めっちゃ詳しいじゃないですか」と言われた。

「少しでも子供達が明るくなればいいなって思って覚えてきたんです。三日後には忘れてると思いますけど」と笑った。


そんな話をしていると突然、何を思ったのかヒロくんが「俺はね、今回テレビで先生の彼氏を募集すればいいと思うんだよね」と言い出した。

「ヒロさん、先生の心配するなら、自分の心配してください。まだまだ頂上先ですから」

そう言うと丸山さんが「じゃあ本当に募集しよう、宛先はwebで」とカメラマンさんの方を見て指で下の方を指していた。

これwebアドレスがオンエア上で本当に表示されてる奴だ、そう思うと目眩がした。


「やめて!絶対やめて!そんな恥全国に晒すなら、ここから飛び降りてやる」

そういいながら私の左横の断崖絶壁の崖を指差すと、丸山さんはひっひっひっとお腹を抱えて笑い出した。

子供達も分かってるのか分かってないのかとにかく一緒に笑っている。

子供達のメンタルのことを思えば自分が全国放送で笑い者になればいいのか。いや、よくない。

すると丸山さんが「じゃあどんな人がいいんですか?募集しませんから教えて下さい」と言った。

「…そんな事、最近考えたこともなかった。強いて言えば…強いて言えば…働いてる人がいいです」

いつの間にか隣を歩いている丸山さんは面食らった顔をした。「働いてるって?いい会社とかでってことですか?」

「そういう意味じゃなくて、別にアルバイトでも何でもいいから自分の仕事頑張ってる人がいいです。これ放送に使わないでくださいよ」

そう言うと「先生安心して下さい、俺に編集権ありませんから」満面の笑みで言われ、再び目眩がした。
 
下らない話を丸山さんと子供達としていると、次の休憩場所がもう見えてきた。
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