第219話 伊豆の踊子
文字数 1,665文字
エレベーターで最上階にある部屋に行くとすぐに案内の人は「ごゆっくり」と言って部屋から出て行った。
私の住んでいるアパート一棟よりも広い部屋の中もちょっとした博物館だった。歴史あるソファにテーブル、卒業式のように立派な生花が生けてある花瓶も見るからに歴史ある重厚感がある。
「凄い、広いし博物館みたい」
感嘆の声を漏らすと彼が得意気に「そんなに喜んでくれると連れてきた甲斐があるよ」と抱きしめられた。
「温泉っていうから、普通の温泉旅館想像してたから落差にびっくりしてる。凄く高いんじゃないの?」
彼に探りを入れると「そこまでじゃないよ」と誤魔化された。
確かに聞いた所でどうするんだという話だけど。
ふと部屋の奥に襖があるのに気がついた。
「奥にも部屋あるの?」
「開けてみて」
奥の襖を開けるとダブルベッドか二つ並んでいた。
「広い」と無邪気に喜ぶとベッドの向かいに直径30センチくらいの大きな壺が目に入った。
「この壺も凄く歴史ありそう」
迷わずその隣にあったドレッサーの引き出しを開けてみるとやっぱりあった。
「ほら見て、部屋の骨董品の解説書あった!」「……壺とか椅子とかも興味あるの?」
「歴史あるものが好きなんだよね、元を辿れば大河ドラマ好きから来てるんだけど」
「兄ちゃんもなんか歴史とか壺とか好きなんだよな」
「あー噂の大学教授のお兄さん。お兄さんと話し合いそう」
「あいつの話やめよう、何か気分盛り下がるから」
彼が神経質そうにそう言ったのが、可愛くて笑った。
解説書を持ちながらベッドの端に座ると彼も隣にぴったりくっついて座った。
「俺何回か来たことあるけど解説書を探し当てた女初めて見た」
「何回か来たことあるっていうイラつく情報は聞きたくない」そう言い返すと「女の誕生日とかにたまたま付き合ってると何かしなくちゃいけないだろ?」「そんな事聞きたくない」
私が機嫌悪そうに黙り込むと「もう言わないよ」と彼は優しく笑って肩に手を回した。
「この壺は江戸時代後期1831年の古伊万里みたい」
解説書を読みながら真向かいにある大きな壺を見た。
「二百年弱前か、この壺が戦争も乗り越えてここにあるって凄いよな」
「そう浪漫感じるよね。えぇっとロビーにあった大きいお皿は」
自分でもわかってる。わざとロビーに飾ってあったお皿のことについて話して、雰囲気を持ってかれないようにしている、何でベッドに何か座っちゃったんだろう。
彼はそんな私の髪を撫でながら呑気に相槌を打っている。解説書を全て読み終わると彼は言った。
「やっと誰にも邪魔されない所に来れたね」
智の事を思い出して申し訳なくなった。
「ごめんね、いつもいつも勝手に入ってくるんだ」と謝ると「亜紀ちゃんの弟だから仕方ねぇ、許してやるよ」と優しく笑った。
「年末年始も正月もずっと亜紀に会いたかった」と彼が優しい目をして言うので、「私も会いたかった」と彼を見つめた。
どちらからともなくキスをすると彼はいつもより短かく止めてしまった。
「正月は本当にホワイトアンドブラックのデビューしてから全部のDVD見たの?」
「見た、歌い方とかこんな風に変わってくるんだって新しい発見があった」
彼は苦笑いした。
「ごめんな、一緒にいてやれればよかったんだけど」
「ううん、仕事だから仕方ないよ。その分今日一緒にいてくれてるし」
彼は笑ってもう一度キスをした。またキスを止めると、再び私の目を見つめ「亜紀、愛してるよ」と言ったのでフフッと笑った。久しぶりに真剣な表情で「愛してるよ」と言ったからだ。
またキスをしながらこのままするんだろうなと思った。事実、彼は私のコートを脱がすと
「ワンピースの下にズボン履くの無しだろ。男受けしないファッションNo. 1」とスカートの中に手を入れてズボンに手をかけた。
この人のこと好きだから何でもいいや、そう思うと今までの憂鬱な気持ちは吹っ飛んでいた。どうにでもなればいい。
その時トントントンと戸をノックする音が聞こえた。彼と顔を見合わせると、「ノックしてくれるだけ親切だって思えるな」とブツブツ言いながら彼がドアを開けた。
私の住んでいるアパート一棟よりも広い部屋の中もちょっとした博物館だった。歴史あるソファにテーブル、卒業式のように立派な生花が生けてある花瓶も見るからに歴史ある重厚感がある。
「凄い、広いし博物館みたい」
感嘆の声を漏らすと彼が得意気に「そんなに喜んでくれると連れてきた甲斐があるよ」と抱きしめられた。
「温泉っていうから、普通の温泉旅館想像してたから落差にびっくりしてる。凄く高いんじゃないの?」
彼に探りを入れると「そこまでじゃないよ」と誤魔化された。
確かに聞いた所でどうするんだという話だけど。
ふと部屋の奥に襖があるのに気がついた。
「奥にも部屋あるの?」
「開けてみて」
奥の襖を開けるとダブルベッドか二つ並んでいた。
「広い」と無邪気に喜ぶとベッドの向かいに直径30センチくらいの大きな壺が目に入った。
「この壺も凄く歴史ありそう」
迷わずその隣にあったドレッサーの引き出しを開けてみるとやっぱりあった。
「ほら見て、部屋の骨董品の解説書あった!」「……壺とか椅子とかも興味あるの?」
「歴史あるものが好きなんだよね、元を辿れば大河ドラマ好きから来てるんだけど」
「兄ちゃんもなんか歴史とか壺とか好きなんだよな」
「あー噂の大学教授のお兄さん。お兄さんと話し合いそう」
「あいつの話やめよう、何か気分盛り下がるから」
彼が神経質そうにそう言ったのが、可愛くて笑った。
解説書を持ちながらベッドの端に座ると彼も隣にぴったりくっついて座った。
「俺何回か来たことあるけど解説書を探し当てた女初めて見た」
「何回か来たことあるっていうイラつく情報は聞きたくない」そう言い返すと「女の誕生日とかにたまたま付き合ってると何かしなくちゃいけないだろ?」「そんな事聞きたくない」
私が機嫌悪そうに黙り込むと「もう言わないよ」と彼は優しく笑って肩に手を回した。
「この壺は江戸時代後期1831年の古伊万里みたい」
解説書を読みながら真向かいにある大きな壺を見た。
「二百年弱前か、この壺が戦争も乗り越えてここにあるって凄いよな」
「そう浪漫感じるよね。えぇっとロビーにあった大きいお皿は」
自分でもわかってる。わざとロビーに飾ってあったお皿のことについて話して、雰囲気を持ってかれないようにしている、何でベッドに何か座っちゃったんだろう。
彼はそんな私の髪を撫でながら呑気に相槌を打っている。解説書を全て読み終わると彼は言った。
「やっと誰にも邪魔されない所に来れたね」
智の事を思い出して申し訳なくなった。
「ごめんね、いつもいつも勝手に入ってくるんだ」と謝ると「亜紀ちゃんの弟だから仕方ねぇ、許してやるよ」と優しく笑った。
「年末年始も正月もずっと亜紀に会いたかった」と彼が優しい目をして言うので、「私も会いたかった」と彼を見つめた。
どちらからともなくキスをすると彼はいつもより短かく止めてしまった。
「正月は本当にホワイトアンドブラックのデビューしてから全部のDVD見たの?」
「見た、歌い方とかこんな風に変わってくるんだって新しい発見があった」
彼は苦笑いした。
「ごめんな、一緒にいてやれればよかったんだけど」
「ううん、仕事だから仕方ないよ。その分今日一緒にいてくれてるし」
彼は笑ってもう一度キスをした。またキスを止めると、再び私の目を見つめ「亜紀、愛してるよ」と言ったのでフフッと笑った。久しぶりに真剣な表情で「愛してるよ」と言ったからだ。
またキスをしながらこのままするんだろうなと思った。事実、彼は私のコートを脱がすと
「ワンピースの下にズボン履くの無しだろ。男受けしないファッションNo. 1」とスカートの中に手を入れてズボンに手をかけた。
この人のこと好きだから何でもいいや、そう思うと今までの憂鬱な気持ちは吹っ飛んでいた。どうにでもなればいい。
その時トントントンと戸をノックする音が聞こえた。彼と顔を見合わせると、「ノックしてくれるだけ親切だって思えるな」とブツブツ言いながら彼がドアを開けた。