第53話 ちゃんとした場所

文字数 1,159文字

数秒の間ができて耐えきれなくなった私が会話を繋いだ。

「話を戻しますけど、何でパーマ辞めたんですか?」

「あれだよ、五年前の件で北澤に説教されたんだよ。ずっと言えなかったけれど、何だその変なパーマって、女にキャーキャー言われたいんだったら、俳優になれ!今すぐに解散するって」  

「北澤さんいい人ですね。私も北澤さん派です。あのパーマやっぱり変ですよ」

「変って二回目言うな」と彼は笑った。

「だって本当に変ですよ」と私も笑うと
「それ三回目だから。でも今思うと、変だって言ってくる人の方が俺に必要な人間だったよ」

遠くに見える山並みを眺めた。じゃあ私も彼にとって必要な人間になれるのだろうか。そんなこと口に出せないけれど。

「北澤さんって本当にいい人ですね」

「本当だよな、パーマの他にもさ、スタッフさんに対する態度が悪すぎるとか、女の人も一人の人間なんだからいい加減な気持ちで付き合うなとか、仕事に優劣つけんな!とか本当にあいつのお陰で人として大切なこと取り戻せたよ」

「コンビ愛ですね」と私が言ってふと横をみると、テレビでよく見せる神経質な表情で「愛って言うのやめて」と言ったので小さく笑った。

車は川にかかった橋を渡ってガタンガタンと音がした。

「人間って怒られて素直に反省して、自分を変えられる人って少ないでしょ?結局また楽な方に流れていっちゃう人多いのに。だから巻頭グラビアまでやってたのに、割としっかりした人になってて丸山さんって凄いなって思いました」

「俺の巻頭グラビアをディスるな」と彼はまた笑った。

「今も出待ちのキャーキャー言うファンの人とかいるんですか?」

「二、三人くらい居るぞ、年齢層高めのマニアックそうな人達が」

「落ち着いて良かったですね」

「そうだな、五年前から風俗行ってとんでもない事した話をし出したら、急速に減ったよ」


「あー私も丸山さんが昔とんでもない事言ってて強烈に覚えてることあります。サッカーボールがどうとかこうとかって」

「うわっ、ネタだから!本当にネタだから!何でよりにも寄ってサッカーボールプレイの話を覚えてんの、痛っ、舌噛んだ」

彼は何故だか異様に慌てている。

「何だか強烈にその事が頭に残ってます。本当にそんなことしてるんですか?」

「本当にネタだから!サッカーボールプレイなんて本当にしてない!俺普通にするのが一番好きだから。逆に亜紀ちゃんはどんな事するの好き?」

「……一体何言ってるんですか」

私のドン引きした空気を察して彼は黙った。私が喜んで答えてくれると思ったのだろうか。

しばらくすると、右方向に学校が見えたので

「山の上小ですよ」と教えると「1ヶ月しか経ってないけど、懐かしいな」と彼が呟いた。
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