第142話 夜の街で

文字数 1,194文字

「明日は何時にどこなの?」
「明日も結構忙しくて8時に東京駅、仙台でロケしてその後東京に戻ってきて収録。さらに深夜にもう一本収録。最近ずっとこんな感じで睡眠時間四時間とかで吐きそう」

本当にハードスケジュールらしい、それでも無理して来てくれたんだからと、私の怒りはまた少し治まった。

「じゃあ6時の始発に乗れば間に合うね、今夜の十一半時でもう終電ないからうちに泊まって」

「家泊めてくれるの?ヨッシャー」
「絶対変な期待しないで」

さっきまでヤケクソで彼に「私にもしてよ」と言ったことを無かったことにして、私は彼に釘を刺した。

「違う布団に寝てね、絶対何もしないで。私まだ怒ってるから」

テンションが下がって項垂れている彼を無理やりお風呂に入らせてベッドの隣に布団を敷いた。

「外雪降ってんだぞ、一人で寝たら寒い」とぶつぶつ文句を言っていたけれど、無理やり布団に入れて電気を消し、ベッドの中で彼に声をかけた。

「いつも朝はご飯食べるの?」「ううん食べない、昼まで腹減らないんだよ。」「じゃあ本当に何もしない」「その方が嬉しい。俺あれこれ構われるのあんまり好きじゃないから」
「思春期の男の子みたい、じゃあお休みなさい」

そう言って寝ようとすると1分ぐらいして彼が話しかけて来た。
「今凄く後悔してることがあるんだよ」
てっきり風俗店に行ったことだと思った。
一応「何?」と聞いてあげる。

「亜紀ちゃんが私にも同じことしてよって言った時何でしなかったんだろう。カッコつけるんじゃなかった」

正直ガクッと来た、私があそこまで今日は絶対しないと言ったのに、そこまでしてしたいんだ……。呆れ返りながら暗闇の中でぼんやりとした彼を見つめた。
「やっぱり優しいし、カッコいいなって思った私の気持ちぶち壊すのやめて」

「……冗談だよ、俺今日は絶対するのやめようと思って、持ってきてないから」

「……一体何の話をしているの」

私はそう言って黙った。何となく見当はつくけれど、そんな話彼と今したくない。

「本当は何の話かわかってるんでしょ?使いたかったら駅前のコンビニで買ってこようか」

「買って来なくていいから!」

「じゃあ使わないでする?最初だからいいか、一度使わないでやってみたかったし」

思わずベッドから起き上がって彼を見た。

「いや、無責任過ぎでしょ?もし仮にそんなことして妊娠したらどうするの?」

そう怒ると彼が笑い出した。

「亜紀ちゃん、何と勘違いしてるの?俺が言ってるの亜紀ちゃんがダウンロードしたがってたゲームに必要なリンゴカードのことだけど」

彼はヒッヒッヒッヒッと笑っている。あまりにノリが悪い私をからかってやろうと思ったのだろう。

「あーもう最悪、わかってて私の事はめたでしょ?」
「いや、まだはめてないけど」と言って彼はまた笑った。
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