第321話 逃げる男
文字数 1,576文字
重ちゃんと健ががっちりと智の両脇を抱えながらながら外へ出た。
「俺は本当にもう逃げないって」と大声で叫んでるけれど、二人は絶対離そうとはしなかった。
携帯を見ると三十分前に美子ちゃんのお父さんから着信があった。
慌ててミコちゃんのお父さんへと折り返し電話する。
「もしもし山浦です。今智捕まえました。健の家に隠れてたのでこれから病院に向かいます」
「さっき無事に生まれたので、ゆっくりで大丈夫ですよ。母子共に健康です」
「二人とも無事で良かった、本当に申し訳ありません」
美子ちゃんの病室を聞いて電話を切ると「無事生まれたの?」と健が聞いた。
私が頷くと「良かったな」と重ちゃんが智に言った。智はまだ実感が沸かないようで「生まれた?本当に出てきたのかな」と挙動不審にキョロキョロと辺りを見渡している。
急に厚い雲の切れ間から太陽の光が差し込んできた。
本当なら一生に一度しかない我が子が生まれる瞬間に立ち会えてたはずなのに、我が弟はなんてバカなのだろう。
智は急に泣き出した。
「お父さんとお母さん怒ってるかな、美子も怒ってるかも。怒られたくないよ、やっぱり行きたくない」
そう言って二人の腕を振りほどこうとしたので、「いい加減諦めろ」とまたがっちり押さえつけられた。
運良くタクシーを止める事ができたので、四人でなんとか乗り込んだ。
タクシーの中でも「行きたくないよ」と暴れて大変だった。
病院まで十五分、大きな病院なので入口から病室までも遠く十分程かかってしまった。
生まれてから少なくとも一時間は経過している。
本当に美子ちゃんごめんなさい。
産婦人科は東病棟の四階にあった。
病室には山浦美子という名札しかなかったので個室らしい。
智はもう腕を離されてるけれど、病室の前の待合室のベンチに座ったまま動かない。
「智、赤ちゃんって可愛いいんだよ。小さくて柔らかくていい匂いで、誰かが守ってあげなきゃだめだっていう気にさせてくれるの、早く見に行こうよ」
重ちゃんが「早く行かないと赤ちゃん大好きな姉ちゃんが先に抱っこするぞ」と茶々を入れたけど全く動こうとしない。
健が大きなため息をついた。「あーあ、無理だってこいつ意気地なしだからもう何言っても無理。怒られるの怖いもんな。じゃあ俺がみこと赤ちゃんの父親になるわ、美子めっちゃいい女だしな」
「おい健何言ってんだよ!駄目だって!」
健は立ち上がり病室に入っていくと
「やめろ!」そう智も叫びながら病室に入っていった。
今まで何度ともなくみてきた光景だ。最近3人で会ってなかったから、それに懐かしさすら覚えた。
「私達もみこちゃんに挨拶して帰ろう」そう彼に言い病室に入った。病室では健とみこちゃんが爽やかに挨拶していた。
「美子ちゃん、おめでとう!」
「お姉さん、お兄さんまで、みんなで探して連れて来てくれたんでしょ。本当にありがとう。今看護師さんがちょうど赤ちゃん連れてきてくれるって」
その直後、看護師さんが部屋をノックした。「お父さん来られました?」
看護師さんは移動式の透明なケースに入れられた赤ちゃんをガラガラと連れて来た。
赤ちゃんは病院名の書かれた洋服を着せられスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。
「お父さんは?」
看護師さんが優しくそう言うと健が「お前だろ!」と言った。
看護師さんから赤ちゃんを手渡されると、智は危なげな手つきで赤ちゃんを抱いた。
「小さ、小さ、何でこんな小さいの」
「可愛いでしょ?」美子ちゃんがそう言うと智が大きく頷いた。
「私達外に出てるから」
健と重ちゃんに目配し部屋を出ようとしたら、美子ちゃんに呼び止められた。
「お姉さん悪いけど、真剣な話したいからちょっと赤ちゃん預かってて」
何故だか生まれたばっかりの新生児を手渡され狼狽した。
あの透明なケースに入れておいてと思ったけれど、美子ちゃんと智の雰囲気の重さにそんなこと言いだせなかった。
「俺は本当にもう逃げないって」と大声で叫んでるけれど、二人は絶対離そうとはしなかった。
携帯を見ると三十分前に美子ちゃんのお父さんから着信があった。
慌ててミコちゃんのお父さんへと折り返し電話する。
「もしもし山浦です。今智捕まえました。健の家に隠れてたのでこれから病院に向かいます」
「さっき無事に生まれたので、ゆっくりで大丈夫ですよ。母子共に健康です」
「二人とも無事で良かった、本当に申し訳ありません」
美子ちゃんの病室を聞いて電話を切ると「無事生まれたの?」と健が聞いた。
私が頷くと「良かったな」と重ちゃんが智に言った。智はまだ実感が沸かないようで「生まれた?本当に出てきたのかな」と挙動不審にキョロキョロと辺りを見渡している。
急に厚い雲の切れ間から太陽の光が差し込んできた。
本当なら一生に一度しかない我が子が生まれる瞬間に立ち会えてたはずなのに、我が弟はなんてバカなのだろう。
智は急に泣き出した。
「お父さんとお母さん怒ってるかな、美子も怒ってるかも。怒られたくないよ、やっぱり行きたくない」
そう言って二人の腕を振りほどこうとしたので、「いい加減諦めろ」とまたがっちり押さえつけられた。
運良くタクシーを止める事ができたので、四人でなんとか乗り込んだ。
タクシーの中でも「行きたくないよ」と暴れて大変だった。
病院まで十五分、大きな病院なので入口から病室までも遠く十分程かかってしまった。
生まれてから少なくとも一時間は経過している。
本当に美子ちゃんごめんなさい。
産婦人科は東病棟の四階にあった。
病室には山浦美子という名札しかなかったので個室らしい。
智はもう腕を離されてるけれど、病室の前の待合室のベンチに座ったまま動かない。
「智、赤ちゃんって可愛いいんだよ。小さくて柔らかくていい匂いで、誰かが守ってあげなきゃだめだっていう気にさせてくれるの、早く見に行こうよ」
重ちゃんが「早く行かないと赤ちゃん大好きな姉ちゃんが先に抱っこするぞ」と茶々を入れたけど全く動こうとしない。
健が大きなため息をついた。「あーあ、無理だってこいつ意気地なしだからもう何言っても無理。怒られるの怖いもんな。じゃあ俺がみこと赤ちゃんの父親になるわ、美子めっちゃいい女だしな」
「おい健何言ってんだよ!駄目だって!」
健は立ち上がり病室に入っていくと
「やめろ!」そう智も叫びながら病室に入っていった。
今まで何度ともなくみてきた光景だ。最近3人で会ってなかったから、それに懐かしさすら覚えた。
「私達もみこちゃんに挨拶して帰ろう」そう彼に言い病室に入った。病室では健とみこちゃんが爽やかに挨拶していた。
「美子ちゃん、おめでとう!」
「お姉さん、お兄さんまで、みんなで探して連れて来てくれたんでしょ。本当にありがとう。今看護師さんがちょうど赤ちゃん連れてきてくれるって」
その直後、看護師さんが部屋をノックした。「お父さん来られました?」
看護師さんは移動式の透明なケースに入れられた赤ちゃんをガラガラと連れて来た。
赤ちゃんは病院名の書かれた洋服を着せられスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。
「お父さんは?」
看護師さんが優しくそう言うと健が「お前だろ!」と言った。
看護師さんから赤ちゃんを手渡されると、智は危なげな手つきで赤ちゃんを抱いた。
「小さ、小さ、何でこんな小さいの」
「可愛いでしょ?」美子ちゃんがそう言うと智が大きく頷いた。
「私達外に出てるから」
健と重ちゃんに目配し部屋を出ようとしたら、美子ちゃんに呼び止められた。
「お姉さん悪いけど、真剣な話したいからちょっと赤ちゃん預かってて」
何故だか生まれたばっかりの新生児を手渡され狼狽した。
あの透明なケースに入れておいてと思ったけれど、美子ちゃんと智の雰囲気の重さにそんなこと言いだせなかった。