第229話 伊豆の踊子
文字数 1,110文字
朝六時、朝日が差し込み眩しくて目が覚めた。隣で彼は寝息を立ててまだ寝ている。起こさないようにそっと体の上に置かれた腕をどかした。
服を着ていないことに気づき昨日着ていた衣類を探す。どうしても服を着ずに寝ることに慣れなくて夜中目が覚めて浴衣を着たはずだった。
けれどそれが明け方バレてまた脱がされて、寝ぼけ半分で露天風呂も一緒に入らされて、あとはレディースコミックも真っ青な展開になってしまった。
こんな爽やかな朝に思い出すのは止めよう。
ベッドの近くに浴衣一式が乱雑に脱ぎ捨てられていた。浴衣を拾い上げたけれど着る気がしないので持ってきていた普通の服を着た。
ベランダに出てみると朝の海は遠くに漁船が二隻見え、海鳥たちが空を自由に飛んでいた。気持ち良く潮風を感じていると後ろでベランダと露天風呂を仕切る戸がガラッと開く音がし、後ろを振り返ると彼が立っていた。
「こんな所にいたの?二時間前にあんなに激しく愛し合ったのに元気だね」
「激しくって……あれしてこれしてって言うからしただけでしょ!」
「うそぉ〜あんなにノリノリだったよね」
彼はわざと私を困らせようとしている。私は両手を両耳に当てて「あおあ聞こえない」と言った。
完全におもちゃにされてる。彼は普段やられっぱなしの癖に今は勝ち誇った顔で私を見ると、次から次へととんでもないことを言ってくる。
私に残された勝つ手段は一つだけ、「正気に戻る」だ。
いつの間にか胸を触っていた彼の手を掴んだ。「いい?太平洋を一望して爽やな気分の朝なの、今から仕事できちゃうくらいの。昨日の夜のちょっとハイになってたこと持ち出されたら複雑な気分になるでしょ?」
そう言うと数秒の間の後に
「全然ならない!昨日の夜のこと最初から思い出そう。最初っていうのは緊張して不安そうな」
「あああっもう!あああっ聞こえない」
そう言ってもう一度耳を押さえた。
私は悟ってしまった、ここでの戦いは絶対に勝てないと。経験年数が違いすぎる。彼は自分が絶対的に上の立場だと自覚したらしく、機嫌良く私を後ろから抱きしめた。
「わかった、わかった、もう言わない。まともに愛を語ってやる。俺達は頭がおかしい付き合いをしてきたから、今朝は初めて過ごした朝じゃないけど、初めて過ごした朝だ」
「どっち?」と笑った。
「俺はね、ずっと今朝の清々しい気持ちを忘れないよ」
「私もこの潮風の匂いと朝日の眩しさ忘れない、ずっと覚えてると思う」
「じゃあ来年」彼がそう言いかけた瞬間に携帯が鳴った。
暗い顔をして「ちょっと出てくる」と部屋の外に行ってしまった。
昨日から続くあの電話一体何なんだろう、何があったんだろうか。変なことじゃないといいけれど。
服を着ていないことに気づき昨日着ていた衣類を探す。どうしても服を着ずに寝ることに慣れなくて夜中目が覚めて浴衣を着たはずだった。
けれどそれが明け方バレてまた脱がされて、寝ぼけ半分で露天風呂も一緒に入らされて、あとはレディースコミックも真っ青な展開になってしまった。
こんな爽やかな朝に思い出すのは止めよう。
ベッドの近くに浴衣一式が乱雑に脱ぎ捨てられていた。浴衣を拾い上げたけれど着る気がしないので持ってきていた普通の服を着た。
ベランダに出てみると朝の海は遠くに漁船が二隻見え、海鳥たちが空を自由に飛んでいた。気持ち良く潮風を感じていると後ろでベランダと露天風呂を仕切る戸がガラッと開く音がし、後ろを振り返ると彼が立っていた。
「こんな所にいたの?二時間前にあんなに激しく愛し合ったのに元気だね」
「激しくって……あれしてこれしてって言うからしただけでしょ!」
「うそぉ〜あんなにノリノリだったよね」
彼はわざと私を困らせようとしている。私は両手を両耳に当てて「あおあ聞こえない」と言った。
完全におもちゃにされてる。彼は普段やられっぱなしの癖に今は勝ち誇った顔で私を見ると、次から次へととんでもないことを言ってくる。
私に残された勝つ手段は一つだけ、「正気に戻る」だ。
いつの間にか胸を触っていた彼の手を掴んだ。「いい?太平洋を一望して爽やな気分の朝なの、今から仕事できちゃうくらいの。昨日の夜のちょっとハイになってたこと持ち出されたら複雑な気分になるでしょ?」
そう言うと数秒の間の後に
「全然ならない!昨日の夜のこと最初から思い出そう。最初っていうのは緊張して不安そうな」
「あああっもう!あああっ聞こえない」
そう言ってもう一度耳を押さえた。
私は悟ってしまった、ここでの戦いは絶対に勝てないと。経験年数が違いすぎる。彼は自分が絶対的に上の立場だと自覚したらしく、機嫌良く私を後ろから抱きしめた。
「わかった、わかった、もう言わない。まともに愛を語ってやる。俺達は頭がおかしい付き合いをしてきたから、今朝は初めて過ごした朝じゃないけど、初めて過ごした朝だ」
「どっち?」と笑った。
「俺はね、ずっと今朝の清々しい気持ちを忘れないよ」
「私もこの潮風の匂いと朝日の眩しさ忘れない、ずっと覚えてると思う」
「じゃあ来年」彼がそう言いかけた瞬間に携帯が鳴った。
暗い顔をして「ちょっと出てくる」と部屋の外に行ってしまった。
昨日から続くあの電話一体何なんだろう、何があったんだろうか。変なことじゃないといいけれど。