第85話 人間って難しいな
文字数 1,820文字
ライトが消された総合受付の前を通り、ようやく外に出られるという時、「あっ兄ちゃんだ、おーい」と智が勝手に暗闇の中に走っていく。
自動ドアの外には丸山さんが手持ち無沙汰に待っていた。
慌てて私も後を追う。丸山さんと智に追いつくと彼の視線がいつもと違うことに気がついた。
「ナースステーションで、もう駅行きのバスないって聞いたからさ、駅まで送ってやるよ」
そういい鍵をブンブン回した。
何かおかしい、鍵なんかブンブン回す人ではないし微秒にいつもと喋る間が違う。
智が馬鹿でかい声で話すから、あの話を全部聞かれていて、聞かなかったフリをする為にここで待っていてくれたのかもしれない。というかきっとそうだろう。
暗闇の中で電灯に照らされた彼の顔を見つめた。
「丸山さん、智の馬鹿でかい声のせいで病室の外まで聞こえてました?」
丸山さんは私を見つめ返し「聞いてない、なんのこと」と笑顔で言った。
私はこれで全てを悟ってしまった。
「昔、家なき犬っていうドラマが流行って、かわいそうで大好きだったんです。丸山さん今私が家なき犬見てる時と同じ顔してます」
丸山さんは何も言わなかった。
「そんな暗い顔しないで笑って下さい、もう過ぎ去ったことだから」
そう言っても丸山さんは何にも言わずにただ私を見つめていた。冗談でもいいから、何か言って笑ってて欲しい。
「私はあの時は大変過ぎて、同情するならドックフードくれってあのセリフ共感できたことあります」
我ながらクソつまんない冗談だ。寧ろ冗談になっているのかも怪しい。丸山さんも智ですら何にも言えなくて固まっている。
その数秒後、突然丸山さんが大声で叫んだ。
「からーい!」
「それ前の旦那さんでしょ」
私が言うと彼は今度は「オムラーイス」と叫んだ、「だから、オムラーイス師匠も同じ人だって」そういいながら、少し笑った。
智が急に不審な動きを始める。地面に寝転がり写真みたいなのをとっているふりをしている。
丸山さんが「それ、今の旦那さんだろ、わかりにくいボケ重ねてくんじゃねえ」と言うと智は「流石兄ちゃん、本職は違うな」と起き上がった。
「あぁそっか今の旦那さんカメラマンさんなんだよね」
そう言って三人で笑った。彼がいつもの優しい顔で聞いてきた。
「お父さんの容態はどうなったの?」
私もできるだけ優しい笑顔で返そう。
「何とか持ち直したけど、そう長くはないみたい」
「そうか」
そう言ったっきり丸山さんは父親の話題には触れてこなかった。
「腹減っただろ?まだ最終の新幹線まで時間あるから東京駅で何か食べようか」と丸山さんが提案すると「俺、父ちゃんのことで頭がいっぱいで朝から食べるの忘れてたんだよ」と智が喜んだ。
「何食べたいの?俺東京駅よく行くから詳しいよ」「俺、東京のキャバクラ行きたいんだよ!」
智は馬鹿だからこう言うことを本気で言ってしまう。っていうかキャバクラってご飯食べられるの?引きつった顔の私の事を無視して丸山さんは智に飄々と言った。
「俺はキャバクラ嫌いなんだよ、女とわざわざ喋るだけのために行きたくないし何にもできないし。キャバクラ行くやつの気がしれない」
「じゃあ兄ちゃん何かさせてくれる店行こうよ。兄ちゃんも店行くの生きがいってテレビで言ってたよね?」
流石に丸山さんは動揺して私をチラッと見た。
「お前ちゃんと空気読め!」
紛りなりにも父親の先は長くないし、奥さんは妊娠中でつわりで苦しんでいるのに、おまけに私が付き合ってる人に、目の前で如何わしい店に行こうと提案する馬鹿が自分の弟だという事実がどうしても許せない。
鞄からスマホを取り出した。
「今から美子ちゃんに電話して、智がこんなこと言ってたって言うから」
すると智は「うわっ!!」と叫んで何故だか私に土下座した。「姉ちゃん許して下さい、それだけは勘弁して下さい」
「今までは別に相手がいないから、社会人なんだし、夜のお店でも何でも好きに通えばって思ってた。でも今あんた結婚してて奥さん妊娠中でつわりで苦しんでるんだけど!絶対許さないから」
智は「ごめんなさい」と泣きながら丸山さんを見た。
「兄ちゃん何か言って、兄ちゃんなら俺の気持ちわかってくれるだろう?」
「空気を読めないお前が悪い!」と何故だか少し動揺している丸山さんに一刀両断されて笑った。
自動ドアの外には丸山さんが手持ち無沙汰に待っていた。
慌てて私も後を追う。丸山さんと智に追いつくと彼の視線がいつもと違うことに気がついた。
「ナースステーションで、もう駅行きのバスないって聞いたからさ、駅まで送ってやるよ」
そういい鍵をブンブン回した。
何かおかしい、鍵なんかブンブン回す人ではないし微秒にいつもと喋る間が違う。
智が馬鹿でかい声で話すから、あの話を全部聞かれていて、聞かなかったフリをする為にここで待っていてくれたのかもしれない。というかきっとそうだろう。
暗闇の中で電灯に照らされた彼の顔を見つめた。
「丸山さん、智の馬鹿でかい声のせいで病室の外まで聞こえてました?」
丸山さんは私を見つめ返し「聞いてない、なんのこと」と笑顔で言った。
私はこれで全てを悟ってしまった。
「昔、家なき犬っていうドラマが流行って、かわいそうで大好きだったんです。丸山さん今私が家なき犬見てる時と同じ顔してます」
丸山さんは何も言わなかった。
「そんな暗い顔しないで笑って下さい、もう過ぎ去ったことだから」
そう言っても丸山さんは何にも言わずにただ私を見つめていた。冗談でもいいから、何か言って笑ってて欲しい。
「私はあの時は大変過ぎて、同情するならドックフードくれってあのセリフ共感できたことあります」
我ながらクソつまんない冗談だ。寧ろ冗談になっているのかも怪しい。丸山さんも智ですら何にも言えなくて固まっている。
その数秒後、突然丸山さんが大声で叫んだ。
「からーい!」
「それ前の旦那さんでしょ」
私が言うと彼は今度は「オムラーイス」と叫んだ、「だから、オムラーイス師匠も同じ人だって」そういいながら、少し笑った。
智が急に不審な動きを始める。地面に寝転がり写真みたいなのをとっているふりをしている。
丸山さんが「それ、今の旦那さんだろ、わかりにくいボケ重ねてくんじゃねえ」と言うと智は「流石兄ちゃん、本職は違うな」と起き上がった。
「あぁそっか今の旦那さんカメラマンさんなんだよね」
そう言って三人で笑った。彼がいつもの優しい顔で聞いてきた。
「お父さんの容態はどうなったの?」
私もできるだけ優しい笑顔で返そう。
「何とか持ち直したけど、そう長くはないみたい」
「そうか」
そう言ったっきり丸山さんは父親の話題には触れてこなかった。
「腹減っただろ?まだ最終の新幹線まで時間あるから東京駅で何か食べようか」と丸山さんが提案すると「俺、父ちゃんのことで頭がいっぱいで朝から食べるの忘れてたんだよ」と智が喜んだ。
「何食べたいの?俺東京駅よく行くから詳しいよ」「俺、東京のキャバクラ行きたいんだよ!」
智は馬鹿だからこう言うことを本気で言ってしまう。っていうかキャバクラってご飯食べられるの?引きつった顔の私の事を無視して丸山さんは智に飄々と言った。
「俺はキャバクラ嫌いなんだよ、女とわざわざ喋るだけのために行きたくないし何にもできないし。キャバクラ行くやつの気がしれない」
「じゃあ兄ちゃん何かさせてくれる店行こうよ。兄ちゃんも店行くの生きがいってテレビで言ってたよね?」
流石に丸山さんは動揺して私をチラッと見た。
「お前ちゃんと空気読め!」
紛りなりにも父親の先は長くないし、奥さんは妊娠中でつわりで苦しんでいるのに、おまけに私が付き合ってる人に、目の前で如何わしい店に行こうと提案する馬鹿が自分の弟だという事実がどうしても許せない。
鞄からスマホを取り出した。
「今から美子ちゃんに電話して、智がこんなこと言ってたって言うから」
すると智は「うわっ!!」と叫んで何故だか私に土下座した。「姉ちゃん許して下さい、それだけは勘弁して下さい」
「今までは別に相手がいないから、社会人なんだし、夜のお店でも何でも好きに通えばって思ってた。でも今あんた結婚してて奥さん妊娠中でつわりで苦しんでるんだけど!絶対許さないから」
智は「ごめんなさい」と泣きながら丸山さんを見た。
「兄ちゃん何か言って、兄ちゃんなら俺の気持ちわかってくれるだろう?」
「空気を読めないお前が悪い!」と何故だか少し動揺している丸山さんに一刀両断されて笑った。