第180話 クリスマスイブ

文字数 1,166文字

暖冬の影響で今晩の東京は晴れるようだ。
雪でも降ればホワイトクリスマスになるのに。私と美子ちゃんと智の三人で山手線を降り人混みの渋谷駅に降り立った。

「やっぱ東京ってあったかいね」
「そうですね」
「暑い、半袖でもいいぐらいだ」

お決まりの会話を智と美子ちゃんと交わしながら渋谷駅の改札を抜けた。

始まるまでまだ二時間もある。妊婦の美子ちゃんに気を使い三人でちょっとお洒落風なカフェに入った。

「美子ちゃん、お腹大きくなったね」そう言うと愛おしそうに「そう、後二ヶ月だから楽しみ」とお腹を撫でた様子を見て素直に羨ましかった。

そして「俺未だに子供生まれるなんて信じられないな」と平然と言ってのける智の頭を鞄でひったたいた。

午後四時だけど「腹減った」とうるさい智に合わせてサンドイッチを食べた。
「健も来ればいいのにな」
「健は高校一年生から毎年この時期いないでしょ?」
「イケメンはいいよな、女なんか腐るほど寄ってくるから、風俗は無理だなって余裕の発言できて」

美子ちゃんに代わり足を思いっきり踏んづけた。
「馬鹿!いい加減にしろ!」
「いてててっ、姉ちゃんごめんなさい」


渋谷駅からほど近くその劇場はあった。ファンの人らしき人達が老若男女問わず沢山いて驚いた。

彼と北澤さんのこと好きでいてくれる人がこんなにもいるんだと「皆さんありがとうございます」と感謝の気持ちが溢れてくる。

「関係者の受付から入ってくれって言われてるんだけど本当に入れるのかな」
「いや、まじでこれで兄ちゃんが言い忘れてて入れませんって言われたらダメージでかいわ」

みこちゃんが智の口を押さえこんだ。
私の心配はよそに関係者受付で名前を告げるとあっという間にスタッフに連れられ劇場の二階の席の一角に通された。

「こんな席あるんだね」「そうですね」
美子ちゃんと周りをきょろきょろしていると「あっ」
智が大声を出したので慌てて奴の口を押さえた。

「騒がない約束でしょ」
「だって、テレビで見たことある人が沢山いる」
智の指先には人気ドラマに出演中の女優さんが最前列に座っていた。その後ろにはよくテレビで見る司会者の人がいた。

横を見ると端に見たことある俳優さんが座っている。

「テレビで見たけれど北澤さんが交友関係が広いんですよね。よくホームパーティーとかもやってるみたい」
美子ちゃんから納得の情報がもたらされた。

「みんな北澤さんのお友達か、あの人は交友関係作るの苦手そうだし」
私がそう言って笑うと智が「だよな、兄ちゃん根暗そうだもんな」と言ったのでまた足を踏んだ。

「ごめん、姉ちゃん。でも何だか俺たち凄い場違い感あるよな」智が小声で言った。

確かにそうだ、こんな場所に私達がいていいのだろうか、不安になる。

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