第281話 追撃される

文字数 1,157文字

二人と別れ地下鉄の駅のトイレで持って来ていた服に着替えた。

駅のドラッグストアで染み抜き専用の洗剤を二人で楽しく選んだけれど、恐らくシミはとれないだろう。だから着替えも買った。

彼の部屋の最寄り駅から地上に出ると、地上は雨が上がった後らしく道路が濡れて街灯を反射している。

彼と取り止めもないことを話しながら雨上がりの道を歩く。酔った勢いもあって彼に聞いてほしいことがあった。

「今日その女が来た時に、斎藤君もいたんだよ。それで女が帰った後に村長から「だからうちの倅と結婚させられんかったんだ」って言われちゃってさ」

「傷ついたの?」
「うん、自分のせいじゃない所で批判されるってつらいもんがある」

彼は少し笑って抱きしめてきた。ちょうどいい具合に酔ってるようだ。
「仕方ないさ、そういう人間もいるからさ」

「そしたらさ、斎藤君がさ「俺は家柄なんかどうでもいい、自分の為に人生歩みたかった」って校長室出ていっちゃって、えっ自分の為に人生歩んでなかったの?って戸惑った」

「……その男可哀想だろ?逆に何で幸せたっぷりで過ごしてると思ってたの?」

「いや、だってお子さんもいるし。お子さん産まれる前は夫婦二人で仲良く腕組みながらオゾンで買い物してるの良く見たし」

「わかってるようでわかってない人は男の気持ちを本当にわかってなかったな。じゃあ聞くけれど亜紀はいつから斎藤君のことどうでもいいと思ってたの?」

「……暫くは引きずってたんだけど、結婚してから数ヶ月後に村人が噂してたんだよね、毎週金曜日と土曜日の夜は家から二人の声がどうたらこうたらって。それ聞いたら一気に冷めた」

「俺たちも村に住んでたら言われてたぞ、亜紀どエロいことして来るから」

私は敢えて無視することにした。普通の会話にこんなことを織り込まないでほしい。

「……だから今回のことは余計に何で?って、結婚して子供もいたら、やっぱりうまく行かないことは出てくるでしょ?それを私とだったらこうはならないはずだって現実逃避してんのかなって」

「男なんてそんなもんだよ、女みたいに簡単に割り切れないから。泣く泣く諦めさせられた女が近くにいたら余計にそう思うんじゃない?」

「そんなもんなのかな、全ての原因は私があの村にいることなんだよね。奥さんのことは嫌いなんだけど、お子さんもいらっしゃるしご家族で幸せになってほしいよ」

「でもあれだな、村人の前でそんな発言されたら、噂になって奥さんまた嫌がらせに来るな」
「だろうね、でも今年こそ異動で出られるかも」

「毎年そう言って五年目なんだろう?」

流石に校長先生が漏らした一言を正式発表前に彼に伝える訳にはいかない。

「うん、でも五年目いて良かった。大好きな人と出会えたし」と言って彼の腕を組んでまた歩き出した。

もう彼のマンションは目の前に見えている。
   







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