第242話 深夜の訪問者

文字数 817文字


お母さんが玉子をパックから取り出しながら言った。「ほら、あの子前に一回結婚しようとしてたじゃない?」

胸がドキッとした。二十五まで付き合ってたっていう例の人のことだとすぐにわかった。

私が何も答えないとお母さんは得意気に話出した。

「聞いてない?その子美咲ちゃんって言うんだけど、うちの近所に住んでたの。小さい頃からの幼馴染でね。お父さんが胃腸科のクリニック何件か都内に経営されてるの。お母様が旧華族の出でね、本当にいいお家なのよ」

「そうなんですね」と何でもないふりをして
相槌をうつのが精一杯だった。

「高校生の頃からずっと付き合ってたみたいで、あの子が独り立ちした時も重明が今こうしてるって教えてくれてたの。美人だしモデルみたいに背も高くて、凄く明るくて優しくていい子なのよ」

お母さんがそう言って、勝ち誇った顔をしたような気がした。被害妄想が激しくなってきている。正気に戻れ。

正直こんな話は聞きたくない、お母さんは昔のいい思い出として話しているんだろうけど、私にとっては昔ではないから。

「どうして別れたか聞いたことある?」そうお母さんに聞かれた。
「私は全く知らないんです」「あぁそうなの、残念。いつの間にか違う人と結婚して海外に行っちゃったの。本当に別れて残念だわ。美咲ちゃんにお嫁にきて欲しかったのに」

お母さんはそう言って私を一瞥した。

やっぱりそうだった、お母さんは私を気にいっていない。
悪意を持って私を傷付けようとしている。
自分の可愛い息子から私を遠ざけようとしている。

「そうそう亜紀さんって、美咲ちゃんに良く似てる、雰囲気が凄くよく似てる。さっき初めて見たとき何か凄く納得しちゃった」

お母さんはそう言うと意地悪く私を見た。
「だからあの子は亜紀さんを選んだのね、納得」

お母さんの悪意をなんて気にならない位その言葉が凄くショックだった。



何故彼が私に近づいてきたのか、どうして私が良かったのか繋がらなかった点と点がようやく繋がった気がした。
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