第101話 初めて過ごした朝

文字数 1,925文字

「母さんと父さんって性格が正反対だったんだよね、父さんは神経質で私や健みたいな感じで、母さんは智みたいに大雑把で掃除が嫌い。だから少しでも父さんが母さんのこと好きになりますようにって小学校くらいからは私が家の掃除してたんだよ」

「俺とか亜紀ちゃんみたいな神経質な人間は大雑把な人と暮らすのは結構な我慢がいるぞ」

「そう、そこからして相性が悪かったんだろうね。私と健は智が散らかしてたら容赦なく怒るし、掃除させてた。智も素直に反省するし、智はその分料理作るの上手くて、調理師専門学校に行かせれば良かったって後悔するぐらい。

正反対だけど言いたいこと言い合って互いに認められる関係なら良かったんだけど、父さんと母さんはそうじゃなかったんだよね。

父さんが母さんと話し合うことを拒否してたから、家族になることずっと拒否してたから、そこは父さんが悪いと思う」

彼が申し訳なさそうにこう言った。

「俺は神経質だし拗らせてるし、職業と顔がいい事を利用して今まで散々女と遊んで来た最低な人間だから、亜紀ちゃんのお父さんの気持ちもわかる…‥子供には絶対苦労はさせないけれど」

「私は神経質で拗らせてるし、男遊びなんて一回もしたことないけど父さんの気持ちわかるよ……聞いた人がウヘェって思う正論を述べてもいいですか?」

「はい、どうぞ」

「あの二人は離婚するべきだったし、母さんも無理に結婚しようとするべきじゃなかった。でも一番は自分への好意を利用して性欲を満たそうとした父さんが悪いよ」

「爆風で通行人の俺までも吹き飛ばされた」
と彼は苦笑した。

「あんまりにも母さんが可哀想になって私が中学から高校に上がる時に母さんに言ったの。

「もう離婚しようよ、松本の爺ちゃんが健も智も連れて帰ってきてもいいって言ってたよ。父さんもう母さんのこと好きじゃないし、その方がお互いの為だよ」って本当にこのまま言ったの」

彼の動きが一瞬止まり「越権行為だな」と呟いた。

「そしたら母さんは見たことないくらいすっごい怖い顔して「あんたに何がわかるの!離婚は絶対にしないから」って叫んだんだよね、16歳にしてお節介正論モンスターで母親までも傷つけた」

「俺、時々亜紀ちゃんが賢いのか馬鹿なのかわかんなくなるわ」

「馬鹿なんだよ、大馬鹿。母さんにあんな事言って傷つけて」

「亜紀ちゃんのお母さんはお父さんを凄く好きだったんだだろな」

「好きだったのは事実だと思う、でも本当の愛じゃないよね、相手に気持ちがないのにそれでも関係を続けようとしちゃいけない。

相手を苦しめてでも一緒にいるって虚しいよね。35歳の今はあれは愛じゃなくて執着だったよなって酷いこと思ってる」

彼が少し怒ったような顔をして私を見ているのに気がついた。

「じゃあ亜紀ちゃんが言う本当の愛って何なの?」

言葉が詰まった。

「……本当の愛、真実の愛、不倫でラリった人達がよく言う言葉だよね……自分で使っといて何なんだけど、何なんだろう本当の愛って」

「俺もわかんねぇな、多分誰に聞いてもわかんないよ。だから、大好きなお母さんのこと執着だなんて言うなよ」

何故だか彼が悲しそうな顔をしていたので急に我に返った。
「……お母さんごめん」そう呟くと彼が小さく息を吐いた。

「お母さんとお父さんのお陰で今の亜紀ちゃんがいるからさ、そんなに深く考えすぎるな」

「…うん、そうなんだよ。そのお陰で私がいるんだよ。両親の行動に腹を立てながらも、そうしなかったら自分がいないというこの矛盾」

「人間なんて矛盾だらけだから気にするな……俺も寝転がろう」

彼は私と少し離れた所に寝転がると両目を閉じた。一日働いてきて疲れてるだろうに、私の愚痴吐きに付き合い、手は繋いでくれてないけれど、一緒に寝てくれようとしている。

「子供の頃下世話な親戚から聞いたんだけど、お母さんがどうしても父さんと結婚したくて妊娠テロを起こしたみたい、避妊具がどうたらこうたらって」

「下世話すぎるだろ、そんな話子供に聞かせんな」

「だよね、それで当時は堕すとか堕さないとか、すったもんだがあったんだって。絶対に責任取らなきゃいけない時代背景があったにしろよく結婚して産んでくれたよ」

そう言うと彼は目を開けて私を見た。
「男としたらたまったもんじゃないけど、でもさ亜紀ちゃんが今ここにいるから、俺はお母さんにもお父さんに感謝してるよ」


「私の存在意義がぐらついてる中、今そう言ってくれる口がうまい人が隣にいて良かった」

「俺の本心だぞ」と彼は苦笑いしながら、手を伸ばしてまた髪を撫でてきた。

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