第285話 バレンタインデー

文字数 989文字

バレンタインデー当日、いつもより30分早い午前五時半に目が覚めた。

冬のこの時間帯、カーテンをめくった窓の外はまだ夜中のように暗い。

昨日彼を怒らせて電話を切られてしまい聞けなかったけれど、今日撮影の時はどうするんだろう?
それに夜家泊まるのかな?

おまけに今日バレンタインデーなんだけど、何にも聞かないままだ。

あーあ、喧嘩したまま仕事場に来るのか、嫌だな。

余計なことを考えないようにテレビをつけた。

真珠のネックレスをやたらと売り出しているようでおばさん達の歓声が耳につく。

大きく息を吐いた。

そのままテレビをとりとめもなく眺めていたら六時になったので、いつもの朝の準備に取り掛かるけれど食欲が沸かない。

結局ヨーグルトを食べただけで後は何の準備もする気なく呆然としていた。

彼を怒らせたままなのは仕方ないとして、村人が彼に何か言わなきゃいいけれど。

心配なことだらけだ。

六時半ごろスマホの着信音が鳴り美香先生からメールが来た。

美香先生はお子さんのお迎えがあり定時に帰る為に朝早く来て仕事をしている。

嫌な予感がする。メールを見ると

「校長室で校長先生と教頭先生と村の人達が大騒ぎしてる、多分昨日のネットニュースの件」と書いてあった。

恐れていたことが現実になってしまった、というか美香先生も見たんだ。

「心の準備をしたいのでどんな事言ってるか教えて貰ってもいいですか?」
とメッセージを送ると「あんなのまともに取り合わなくてもいいと思うけれど、「教育者として」とか「汚らわしい」とかそんな感じのこと」と返信があった。

「今日はギリギリに行きます」
「その方がいいわね」

美香先生の返事を確認すると床に寝転んだ。
よりにもよって当事者である彼までもが来るこんな日に。

しばらくぼーっとテレビを見ていた。

こうなったからには子供達が登校してからギリギリに学校に行くしかない。

学校というのは不思議なもので子供達が登校すると、すべてのゴタゴタが中断されるのだ。

子供も色々言ってくるだろうな、でもあの子達は良い子たちだから、空気を読んで言わないかもしれない。

七時ぐらいにまたメールが来た。美香先生からで「校長先生と教頭先生と朝早く来てる先生たちで他人の空似で押し切って、村の人達一度帰ったから安心して来て」

涙が出てきた。みんな優しい。

「本当にありがとう」と返信して玄関を出た。学校まで二十分車を走らせると七時半を回っていた。
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