第99話 初めて過ごした朝
文字数 1,651文字
シャワーを借りてリビングに戻ってくると彼が「俺はこの風呂上りの癖毛が好きなんだよ」と言ったので「本当に変な人」と笑った。
相変わらず彼と手を繋いでソファに座っていた、何をする訳ではないけれどくだらない話をして二人で笑っていた。彼は気を遣って父親の話題を一つも出さない。
本当に彼が今日居てくれてよかった。
午後十時頃、彼が大袈裟に頭を抱えた。
「もう、寝よう!悪魔のささやきが聞こえる」
「悪魔のささやき?」
「亜紀ちゃん可愛いし一緒にいて楽しいから凄く好きだなって「このままベッド連れてってやってしまえ」って悪魔がささやいてくる」
「ささやきの詳細な内容私に発表する必要あるの?」
「だから俺の理性があるうちに寝よう、俺は約束は守るから。布団さっき敷いといたから」
そう言って立ち上がった。約束か、ここに来る前に何にもしないって言ってたけれど、あの話題を出さなかったら今頃一緒に寝ていたのだろうか。
「でもいくら囁かれても、しげちゃんは無理やりそんなことしないと思うけど、優しいから」
「無理やりはしない、俺優しいから。でもちょっとずつちょっとずつその気にさせて、あっという間に最後までする自信はある。」
「……詐欺師の手口みたい」
「特に亜紀ちゃん一番チョロそうだし」
「チョロくないって!」
「絶対一番チョロいだろ?簡単に同じ布団入ってくれそう」
確かに何とか理由つけられたら彼ならいいかと一緒に寝ちゃいそうだ。私は好きになった男に弱い、彼はそれを見抜いているのだろう。
「人のことチョロそうって失礼なこと言うけど、それは私にある程度信頼されて好意も持たれてるってわかってるからでしょ?」
何故だか彼は自慢気にこう言った。
「そうだよ、愛し合ってるからな、あーもっと深く愛し合いたいよ」
何故だか私の心の中の正論モンスターが騒ぎ出した。
「たいして好きでもなくて信頼関係もない人と性的な関係を持とうとしてたから、チョロいとかチョロくないとかっていう判断基準が出てくるんでしょ?チョロいなんて言うに至った今までの人と人の付き合い方がおかしい」
ちょっと言いすぎたかと思った、けれど「ぐうの音も出ない正論でしげちゃんはKOされました」と彼はどことなく嬉しそうに笑った。
手を引かれ廊下を歩きしげちゃんが「ここで寝て」部屋の戸を開けた。
「不動産屋の内覧の時みたいに何もない部屋
「使ってないから」と彼は笑った。
「この部屋も毎日掃除してるの?」
「うん、気持ち悪いだろ?」
「私はそれが嫌だから一人で住むならワンルームって決めてる」
「まぁそれが賢いよな、じゃあ亜紀ちゃん一緒に住む?」彼がまた軽い調子で言ってきたので私も軽い調子で返した。
「東京で仕事してたら住んでも良かったけどね」
次の瞬間、出窓の所から何かがポンと落ちてリバウンドして足元に転がってきた。
サッカーボールだった。
彼が夜のお店に行ってサッカーボールを使ってどうたらこうたらというくだりを思い出し「あっ」という声が出てしまった。
あの時彼は「ネタだから、本当にサッカーボールプレイなんてしてない」と否定していた。
彼は慌ててサッカーボールを手に持つと「ファンの人から貰ったプレゼント、一回も使ってないから、新品」と焦っていた。
そのまま流せばいいものの、私の悪い癖がでてくる。
「よく見たら二、三回使ったような細かい傷がついている」
そう指摘してしまった。
「本当だ、何でだろうな、わからないな」彼はサッカーボールを背中に隠した。
「じゃあ寝るね、亜紀ちゃんおやすみ」彼が引きつった笑顔で部屋を出て行こうとした。急に何だか一人が怖くなった。
「ねぇ重ちゃん、手繋いで一緒に寝て」と試しに言ってみると「駄目だって!」と強めに怒られてしまった。
そりゃあそうだよね、ずっと理性がって言ってたし。
ドアを閉めて部屋に一人、窓から東京のビル風が入ってきて前髪を激しく揺らした。
相変わらず彼と手を繋いでソファに座っていた、何をする訳ではないけれどくだらない話をして二人で笑っていた。彼は気を遣って父親の話題を一つも出さない。
本当に彼が今日居てくれてよかった。
午後十時頃、彼が大袈裟に頭を抱えた。
「もう、寝よう!悪魔のささやきが聞こえる」
「悪魔のささやき?」
「亜紀ちゃん可愛いし一緒にいて楽しいから凄く好きだなって「このままベッド連れてってやってしまえ」って悪魔がささやいてくる」
「ささやきの詳細な内容私に発表する必要あるの?」
「だから俺の理性があるうちに寝よう、俺は約束は守るから。布団さっき敷いといたから」
そう言って立ち上がった。約束か、ここに来る前に何にもしないって言ってたけれど、あの話題を出さなかったら今頃一緒に寝ていたのだろうか。
「でもいくら囁かれても、しげちゃんは無理やりそんなことしないと思うけど、優しいから」
「無理やりはしない、俺優しいから。でもちょっとずつちょっとずつその気にさせて、あっという間に最後までする自信はある。」
「……詐欺師の手口みたい」
「特に亜紀ちゃん一番チョロそうだし」
「チョロくないって!」
「絶対一番チョロいだろ?簡単に同じ布団入ってくれそう」
確かに何とか理由つけられたら彼ならいいかと一緒に寝ちゃいそうだ。私は好きになった男に弱い、彼はそれを見抜いているのだろう。
「人のことチョロそうって失礼なこと言うけど、それは私にある程度信頼されて好意も持たれてるってわかってるからでしょ?」
何故だか彼は自慢気にこう言った。
「そうだよ、愛し合ってるからな、あーもっと深く愛し合いたいよ」
何故だか私の心の中の正論モンスターが騒ぎ出した。
「たいして好きでもなくて信頼関係もない人と性的な関係を持とうとしてたから、チョロいとかチョロくないとかっていう判断基準が出てくるんでしょ?チョロいなんて言うに至った今までの人と人の付き合い方がおかしい」
ちょっと言いすぎたかと思った、けれど「ぐうの音も出ない正論でしげちゃんはKOされました」と彼はどことなく嬉しそうに笑った。
手を引かれ廊下を歩きしげちゃんが「ここで寝て」部屋の戸を開けた。
「不動産屋の内覧の時みたいに何もない部屋
「使ってないから」と彼は笑った。
「この部屋も毎日掃除してるの?」
「うん、気持ち悪いだろ?」
「私はそれが嫌だから一人で住むならワンルームって決めてる」
「まぁそれが賢いよな、じゃあ亜紀ちゃん一緒に住む?」彼がまた軽い調子で言ってきたので私も軽い調子で返した。
「東京で仕事してたら住んでも良かったけどね」
次の瞬間、出窓の所から何かがポンと落ちてリバウンドして足元に転がってきた。
サッカーボールだった。
彼が夜のお店に行ってサッカーボールを使ってどうたらこうたらというくだりを思い出し「あっ」という声が出てしまった。
あの時彼は「ネタだから、本当にサッカーボールプレイなんてしてない」と否定していた。
彼は慌ててサッカーボールを手に持つと「ファンの人から貰ったプレゼント、一回も使ってないから、新品」と焦っていた。
そのまま流せばいいものの、私の悪い癖がでてくる。
「よく見たら二、三回使ったような細かい傷がついている」
そう指摘してしまった。
「本当だ、何でだろうな、わからないな」彼はサッカーボールを背中に隠した。
「じゃあ寝るね、亜紀ちゃんおやすみ」彼が引きつった笑顔で部屋を出て行こうとした。急に何だか一人が怖くなった。
「ねぇ重ちゃん、手繋いで一緒に寝て」と試しに言ってみると「駄目だって!」と強めに怒られてしまった。
そりゃあそうだよね、ずっと理性がって言ってたし。
ドアを閉めて部屋に一人、窓から東京のビル風が入ってきて前髪を激しく揺らした。