第4話 帽子岳の山頂で

文字数 1,099文字

数分歩いた時に丸山さんが「先生凄く体力ありますね、おいくつですか?」とやけに通る声で聞いてきた。私が一番聞かれたくなかったことだ。

「絶対言いませんよ、これ全国放送で流れるんでしょ?じゃあ丸山さんはおいくつですか?」

そう切り返すと「俺は42です。それで先生は?」

「だから、全国放送」そう言いかけた時、ヒロくんが馬鹿でかい声で「先生は35歳独身、彼氏もずっといないんだって」と叫んだ。

一気に体中の水分という水分が抜けた気がした。

「……ヒロさん、先生の個人情報、山彦が返って来そうな声で、おまけに全国放送で叫ぶのやめて下さい!」

何とかそう言うと丸山さんが「そうなんだ、てっきり20代後半かと思ってました」と言った。

お世辞だとわかっていたけれど、「嬉しい、丸山さん口が上手いですね」と喜んでしまった。自慢じゃないけれど私は凄く単純なのだ。

数秒後、丸山さんに「先生お世辞ですよ。俺と同世代でしょ?」と叫ばれた。

何だか凄く落ち込んで無言になり暫く歩いていると丸山さんが「先生わかりやすく落ち込みすぎ、嘘です」と弁解している。

「本当に二十代後半だと思ってました。先生童顔でほわっとしてそうな雰囲気あるから、二十代前半でもいける!でもこの落ち着きようからして二十代後半かな」

振り返り丸山さんのことを訝し気に見ると彼はこう続けた。

「いやーやっぱり同世代に見えるな」
「同世代じゃありません!七つ違うでしょ?」

「そうだった、先生は童顔で何故か化粧もしてないから若く見える!」

「登山で汗だくになって化粧もデロデロになった姿全国に流れるよりしない方がましでしょ?」

「なるほど、じゃあ化粧もばっちりのお洒落してる写真見せて下さい、俺そういう派手な女の人の方が好きなんです」

「何で丸山さんの好みに合わせた写真見せないといけないの?」

そう言うと丸山さんはヒッヒッヒと笑い出した。

「先生綺麗な顔立ちしてるから、ちゃんとした所見てみたいんですよね」

「今更何フォローされても嘘に聞こえますから!」

そう言うとヒロくんが「丸ちゃん、先生怒らせたの?こういう時は男がちゃんと女の人に謝んなきゃだめだよ」

と大人のいい男風のことを言って思わず笑ってしまった。ここだけの話、ヒロくんはかなりの調子乗りだ。

丸山さんはヒロくんに「そうか、わかったよ大石田順一さん。ちゃんと俺から謝るわ」と言うと、私の方をみて「亜紀先生のことからかってすいませんでした」

と若干ふざけ気味に謝られたけれど「もういいですから、楽しく歩きましょう」と言ってまた前を見て歩き出した。
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