第203話 再会は突然に

文字数 1,345文字

ホテルの前で叔父さん叔母さんと別れると四人で東京駅に向かった。私は新幹線で帰るし、智と美子ちゃんは美子ちゃんのお家に泊まるし、健も寮に帰るしでちょうど別れる駅だったのだ。

帰りの京浜東北線は夜の八時を回っていることもあり空いていた。隣の席に座っている健が窓の外をずっと眺めている。
「健、良かったね」
「母さんと叔父さんがやってる店、稽古場とも近そうだし今度行ってみるよ。妹にも会えたらいいけど」
「それがいいよ、私もいつか会ってみたいな。私の従姉妹にあたるってことでしょ?」

智が急に会話に参加してきた。
「俺も会って女子高生にちやほやされたいな」美子ちゃんにまた怒られシュンとした。こいつは本当に懲りない奴なのだ。

電車はいくつかの駅に止まり、その度に沢山の人が降りては乗ってくる。夜の東京の街を眺めながら健が家に来た頃を思い出していた。田舎の家の居間でベビーベッドが二台置かれていた。二人の赤ちゃんが泣いていて母さんと手分けしてミルクをあげオムツを替えていたこと。
隣にいる健と智を見てこんなに大きくなったんだと感慨深くなる。

ふと健が呟いた。
「亜紀、俺が小さい頃から本当に色々ありがとうな」
「まぁ、どうってことないよ」
急にそんなこと言い出した健が小さい頃私の服を離さずずっと付いて回っていた健とダブって可愛く思えた。

「俺は丸山さんにも感謝してる」
「何で?あの人何かした?」
「亜紀の心開かせて、意外とちゃんと付き合ってくれてるから、あの人のお陰で俺の肩の荷が降りた」

健はずっと独身の私のことを心配してくれていたのだ。
「まぁね、あれちょっと待って。私がまだ独身なの健のせいでしょ!健がホラ話したから!さーっと逃げてった男が五人もいる」
「ヤバいバレた。でもいいじゃんか、そうしないと丸山さんと出会えなかったよ」
それを言われると怒るに怒れなくなる。唇を噛み締めて健を睨んだ。

「せめてあの中の誰か一人ぐらいと付き合えてたら、ニ、三ヶ月でいいから付き合っておきたかった。丸山さんと付き合えなくなくなるからちょっとの間でいいから、一通りまともな恋愛しときたかった」

私の魂の叫びを聞いて健は私の殺気を感じたのだろう。必死に話を変えようとした。

「丸山さんって女にだらしないって有名だから、最初に亜紀の部屋で会った時に地方妻でも作る気なんか最悪だなって思ったよ」

「……私も最初凄く警戒した。でも何か違うみたいだし、五年前から心入れ替えたんだって、何で私?って今だに不思議だけど」

「丸山さんがモテるだろうに亜紀を選んだ理由俺は何となくわかるよ」

「何で?教えてよ」

健は寂しい目をしてまた窓の外を見た。

「この業界にいたら甘い誘惑も多いし、グレイなことだらけだから、俺でさえそうなんだから丸山さんなんかもっとだと思う。亜紀みたいにはっきり白みたいな人って安心するんだよね」

数ヶ月前に健の同期が薬関係で捕まった。私には言わないけれど、智によると健の元カノがAVデビューしてショックを受けていたらしい。
健も色々大変なんだ。でも健の性格上あんまり心配しすぎないようにしている。ウザがられるだけだし。

だからせめて冗談でこの場を明るくしよう。

「でも私は白でも黒でもなくホワイトアンドブラックだから!」

「何言ってんだよ」と健は笑ってくれた。
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