第269話 追撃される

文字数 1,082文字

「あのさ、亜紀もう一つ聞いてもいい?NPO法人に寄付したの?」

今更になって寄付したことを彼にしっかり伝えれば良かったと後悔している。

「した、年末の暇な時にホームページ見てたら寄付募集してたから、ごめん言ってなくて」
「いくら寄付したの?」
「結構な大金、百万円寄付した。お父さんが私に頼ってきてたらそれ以上にかかってた訳だし」

「今度からそういう大きなことするときは俺に一言相談して、ちゃんとしたことなら絶対反対はしないから」

「うん、何かお金のことだし言いづらくて、ごめん」

殊勝に謝る私を見て彼はニヤっと笑った。
「じゃあ申し訳ないと思うんだったら、貯金額教えてよ」
「……教えるわけないでしょ!」
「じゃあ上一桁の数字だけ教えて」
「誰が教えるか!」

そう言った瞬間、ふとテレビ画面を見ると見覚えのある女の人が出ていた。このとうもろこしの髭みたいな髪の女……

「この人クリスマスイブのライブの時に見た」思わずそう叫んだ。

「この子、同じ事務所の後輩なんだよね。サラマンダーユニコーンちゃん、通称サラちゃんって呼ばれてる」

サラマンダーユニコーンさんはステージに出てきたかと思うと、両手を合わせて「へび、ニョロニョロ。犬、ワンワンお手お座り伏せ」と踊り出した。

「この歌、クラスの子も歌ってた!」

「今、事務所が必死に流行らそうとしてるからな」と彼は渋い顔をした。

彼自身も時代にイケメン芸人と流行らせられたことがあり、若い人の一時的な流行には芸人の使い潰しと渋い顔をする。

「ちょっと本当にこの歌クラスで流行ってるよ」

「うちの事務所、一番って訳じゃないけど、結構な大手だから力あるんだよ。ゴリ押しすればこうやって多少は流行る」

「そっか」相槌を打ちながらテレビの中のサラマンダーさんを眺めていた。

正直彼女に全くいい印象はない。サラマンダーさんは彼のことを好きなのだろうが、私と彼が全く釣り合いがとれていないとか身の程を弁えろとか失礼なことを言われたからだ。

直ぐにサラマンダーさんは画面から消えて、また東京の美味しいグルメの紹介になってしまった。


夜、彼が寝息を立てている横でそっと服を着ると寝付けずに今日一日を振り返った。

お父さんと駆け落ちした憎い女に追撃を受けた。悔しいしやり切れない、仕返ししてやりたいけれど彼が言う通りしない方がいい。

このままではあの女に好きなようにやられっぱなしになる。でもこれ以上やられない為には仕方がないのだ。

世の中には他人を喰い物にして生きている人間がいる。

仕方がない、自分を無理に納得させた。


そして翌日、私はサラマンダーユニコーンさんからも追撃を受けることになる。
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