第186話 クリスマスイブ

文字数 1,100文字

木村さんもその時の情景を思い出したのだろうか、何にも言わずに黙り込んだ。だから私が何とか話を続けた。

「林田さん、その女の人の写真本当に消すといいんだけど。私許せないんです。そういう犯罪の被害に遭ってつらい想いをする女の人がいることが」
「あー丸ちゃんが昔付き合ってた人は破天荒だからそんなの気にしてなさそうだったな」

思わず木村さんを見つめた。破天荒で気にしてないってどういうことだろう。そんな写真が出回ったら普通の女の人は耐えられないと思うんだけれども。

「その人本当に気にしてないんですか?大丈夫なんですか?」
「あぁ何ていうか……破天荒なんだよね。昔林田の一発ギャグが少し流行ってちょっとテレビ出れた時期があるんだけど、そしたらその人林田と寝ちゃってそんな事になったみたい」
「……凄く破天荒」
私がそう呟くと木村さんは少し笑った。
「丸ちゃんが遊んでる女達も林田についてっちゃうようなタイプだったから、亜紀ちゃんが正反対のタイプでかなりびっくりしてる」

「確かに正反対かも、何で私と付き合ってるんだろう」

「それは丸ちゃんじゃないとわからないけど、その人と別れて以来俺はもう二度と人を好きにならないってずっと言ってたのに、数ヶ月前に会った時に俺好きな子できたわって言い出してびっくりしたよ」

半信半疑で聞いていた十何年ぶりに人を好きになったという話は本当だったらしい。

「その話本当だったんだ」
「しかも小学校の先生って言ってたから「付き合えるの?」って聞いたら、きっと運命だから大丈夫って言ってたよ」
「そんな恥ずかしいこと友達にまで言って」
「丸ちゃんだからね」
木村さんと二人で笑った。

劇場はもう私達以外誰も残っていない。お揃いのTシャツを着たスタッフが何やら片付けを始めた。

「よく名前が出る木村さんに会えて良かったです」
「でも最近はほら丸ちゃん売れっ子で忙しいから、テレビ局とかで会った時に喋る程度なんだよな、また二人で飲みにいきたいな」

そう木村さんは寂しそうに呟いた。忙しいって言ってるけれどお世話になってるプロデューサーとか川井さん達と飲んでるから、飲みに行く時間位はありそうなのに。

そう言えば木村さんは以前テレビでよく見たけれど、最近はあまり見ない。入れ替わりが激しい世界で売れている売れてないとかで友情にヒビが入ったとか色々あるんだろう。男の人の方が仕事関係は敏感になるだろうし。

智と美子ちゃんが帰ってきた。木村さんをみて智が「パンチングマシーンの木村さん!サインして!」と騒ぎ始めたので慌てて引き離し、智を廊下に連れ出した。





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