第150話 夜の街で

文字数 1,272文字

彼が謝罪に来て結局イチャついて帰って行った四日後の月曜日、ずっと何だか釈然としない気持ちを抱えてウダウダとしていた。

私と付き合っておきながら夜のお店にいって他の女の人と関係を持ってた事実、そして何故だか一番腹が立っているのは暫くキスしないと言ったのに「自分に厳しく俺に甘い」と言い放ち、最後に二回もして帰っていった彼の得意顔が鼻に付く。

私のこと舐めてかかってない?

勤務時間も終了した午後5時、図書室の前を通りかかった時いつもの二人が見えたので中へと入った。

「あっ亜紀先生」
机に両手をつけて二人の目を見た。
「ねぇ唐突に聞くけれど、もし旦那さんが夜のお店行ってたらどうする?」

真美先生は「唐突すぎる」と笑った。
美雪先生は「そんなの絶対に許さないですよ」と珍しく怒った様子を見せた。

いつも穏やかで優しい美雪先生なのに、何かトラウマでもあるのだろうか。
真美先生もびっくりして美雪先生を見ている。

「今の旦那さんと付き合う前に婚約してた人がいるんですけど、その人が夜のお店行ってたのがわかって別れたんです。」

真美先生が「婚約までしてたのに?」と言うと「もう汚く思えて触るのも無理だったんです」と美雪先生が心底ゾッとした顔で言った。


「私は別にバレなきゃ店ぐらい平気ですけどね、バレるようなヘマしたら締め上げる」真美先生はそう言って豪快に笑った。

私は真美先生みたいに豪華に許せもしないけれど、美雪先生みたいに触られるのも嫌なぐらいは怒っていない。

今日国語の時間に子供が創作した百人十色と言う言葉が思い浮かんだ。

美雪先生が訝し気に私を見ている。
「でも何でまたこんなタイムリーな話題を」

美雪先生の手元には村のコミュニティホールで読まれたであろう、廃棄雑誌があって何故だかちょうど例の彼の記事が開かれていた。

真美先生が強い口調で喋り始めた。
「丸山さん昨日テレビの生放送でこの記事突っ込まれてて、彼女にクソ怒られて、めちゃくちゃ謝ったって言ってたんですけど」
「……へぇ、そうなんだ」

「その彼女、群馬か長野かよくわかんない所にいて小学校の教員らしいんですけど」

真美先生がそこで言葉を止めると、二人は私を見た。
図書室に緊張が走る。
別にここまで来たら隠すのも無駄になる気がするけれど、逆にここまで来たからこそ認めるのも億劫だ。

真美先生が犯人を見つけた名探偵のように言った。
「単刀直入に聞きますけれど、登山が終わってから丸山さんに会ったことありますか?」

10秒余りの沈黙の後に私はこう言った。
「……会ってないとは言い切れない」

そう言った瞬間に「山浦先生、職員室までお願いします」と校内放送が流れた。

「呼ばれちゃった」と私は急いで図書室を出ると「ちょっと!亜紀先生どういうことですか!」と中から声が聞こえた。

職員室に戻るとなんてことない、業者の人から見積もりの電話だった。業者さんありがとう。

業者の人からの電話が終わった後も私は釈然としないら気持ちに襲われていた。
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