第223話 伊豆の踊子

文字数 1,566文字

次に口を開いたのも彼だった。
「それにちょっと仕事関係で今日トラブルがあって電話ばっかりしてて全く愛せてなくてごめん。早くしないとまた電話かかってくると思ってイライラしててあんな事して本当にごめん」

彼に謝られても何に言えなかった。
彼よりも自分が悪いと思う。

彼は今日一日中電話をしていた、何があったのだろう、何か大きな事が起こっていそうだけど、大きな息を一つ吐くと思い切って彼に聞いてみた。

「何があったの?」
「ちょっとな、前からわかってたことだから、大したことじゃない」

彼はそう言って言葉を濁した、話したくないことなのだろう。私だって仕事上のトラブルは守秘義務があって話せないこと沢山ある。だからこれ以上は聞かないでおこう。

「それは解決したの?」
「うん、何とかなったからもう今日はかかって来ない」
そう言って彼は優しい目で笑った。

「そう良かった。でも私も大分悪いと思う、もうちょっと誰かと恋愛して人並みに誰かと関係持っておけば良かったって凄く後悔してる」

彼は引きつった顔で言った。
「今度は何を言い出すの?「大好きな人の為に
初めてをとっといたの」って可愛く言ってくれよ」

「何そのセリフ気持ち悪い。この間読んだレディースコミックの主人公もそんな事言ってた」
そう言って笑うと
「何でそんなもん読んでんだよ」と彼も笑った。

「別に大好きな人の為にとっといたとか、そういう訳じゃなくて、気持ちいいっていうから誰かかっこいい人としてみたかったんだけど」
「一体何言ってるの?」
下ネタ大好きの彼が初めてドン引きしている所を見た。彼は唖然と私を見つめている。

「成人してるんだったら自由じゃん。人に迷惑かけないんだったら、自分の責任で好きに性行動すればいい」

彼は本職らしく私の矛盾点を突っ込んできた。
「さも自由奔放な女かのような発言してるのに、じゃあ何で今まで誰とも関係持ってこなかったんだよ」

「自分の神経質な性格が災いして、どんなにイケメンでも好きじゃなかったら体触られるの嫌なんだよ。「ちゃんとお風呂入ってんのかな?」とか「ちゃんと手を洗ってんのかな」とか「菌がウイルスが手の汚れが」って思っちゃう」

彼が急に笑い出したので腹が立った。私はこの神経質な性格のせいで本気で困っていたのに。
「笑い事じゃなくて自分の体を好きに触られてもいいって相当な信頼関係がないと無理じゃない?」

「俺は結構好きに触ってるけどいいの?」
「まぁ許せる」
「ってことは、要するに俺にくれる為に初めてをとっといてくれたんでしょ?」
「気持ち悪いって」
「愛する彼氏のこと気持ち悪いっていうな」と 私の肩を抱き寄せた。また部屋に静寂が訪れ、一分ぐらい経つと彼が口を開いた。

「今日もどうしようって一人で不安抱えて困ってたの?」
私が頷くと彼は笑った。
「何を一体そんなに困ってるの?」

「……どうしていいかわからない、どんな顔して居ればいいのかもわかんないし、どういう時にどんなことすればいいのかもわかんない、今してもきっと、ちゃんとできない」

彼は私が真剣に訴えた事を聞いて笑った。滅茶苦茶笑っている。
「何でこんな場面でもちゃんとしなきゃいけない病でてくんの?」

「……ちゃんとしなきゃ気が済まないの!教えてくれればちゃんとやるから、ユウチュウブに誰か動画あげてくれれば間違わずにその通りにやってみせるから」

私は真剣に訴えていたのに彼は「ユウチュウブじゃなくてxxvideoにいっぱいあるよね」と言うと私の膝に頭を乗せてお腹を抱えて笑った。

しばらく笑っていた後、体を起こしてまた私の肩を抱き寄せた。
「あーあ、本当に亜紀は面白いな。困ったり不安だったら何だって俺に相談してくれっていつも言ってるだろう?35なのに手がかかりすぎるよ」

そう言って彼は笑ったけれど、素直になれない私は最後の発言にまたつっかかった。
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