第48話 ちゃんとした場所
文字数 2,241文字
今夜は雨がシトシトと降っている。窓越しに雨を見ながら今日も丸山さんと電話で話しをしていた。
健の心配そうな顔を思い出す度に、私は開き直るということを覚えた。
「電話ぐらいしたっていいでしょ?別に会ってるわけじゃないから、セーフ」
自分でも段々と底無し沼に嵌っていっている気はしている。でも丸山さんと電話することを、止められないのだ。
「いつから健君は家にいるの?」
丸山さんに電話越しにそう聞かれた。
「最初に見たのは私が十歳のお正月ですね、それまでは智しかいなくて、お母さんばっかり赤ちゃんの世話してズルイってブー垂れてたんですけど、それがある日突然1人赤ちゃんが増えてたんです」
「どうして亜紀ちゃんの家に来ることになったの?」
「それがわかんないんですよね、健の親が世話をしなかったってのは、後日聞いたんですけど。何で健が家にいるのかは不明なんです」
「それで普通に世話してる亜紀ちゃんのお母さんも亜紀ちゃんも凄いよ」
「私もお母さんも赤ちゃん大好きなんですよね。赤ちゃんってふにゃふにゃで柔らかくてミルクのいい匂いがして、守ってあげなきゃって思うんです」
「俺は新幹線とかで泣いててうるせぇなくらいしか思ったことなかったから、そんなに可愛いの?」
「男の人にはわかんないかもしれないけど、どの赤ちゃんも可愛いんです。母性本能が刺激されるというか、だから新幹線で泣いてても温かく見守ってあげて下さい」
「亜紀ちゃんがそういうなら、赤ちゃんの泣き声を可愛いなって思えるように修行するよ」
そう彼は笑った。
「だから健も来たから本当に嬉しくて、お母さんが世話してない方の赤ちゃん抱っこして私の赤ちゃんってやってました」
「それもう本当の弟だね。てっきり中学生くらいから家に来たのかと思ってた」
「そうです、だから本当の弟ですって。むしろ八歳から育てて来たから、自分の子供みたいな愛情もあります」
「亜紀ちゃんと話してればわかるよ」そう彼は優しく言った。
「だから赤ちゃんの頃、お母さんがおっぱいあげてるの見てそれが羨ましくて、こっそり2人に私もあげて見たことあります」
「えっ?!」
丸山さんが怪訝な顔をしたのが想像がついた。
「本当馬鹿でしょ?十歳だったからわかんなかったんです。でも吸わせ方もわかんないし、結局すぐに母に見つかって赤ちゃんに可哀想な事するなって酷く怒られました」
「急にあいつらがムカついてきたわ、亜紀ちゃんのおっぱい吸ってたなんて」
「…丸山さん、何か違う意味に聞こえるからその言い方やめて下さい」
そう言うと丸山さんはわざとらしく「そうかな?」と言った。
「じゃあさ、何で赤ちゃんの頃からいるのに健君は亜紀って呼び捨てで呼んでるの?」
「あれは周りの大人が悪いですよ、健にいちいち本当の姉ちゃんじゃないから、迷惑かけるな、姉ちゃんって呼ぶなって言ってくるんですよ」
「子供にそんな事言ってどうするんだろうな。それで健君は亜紀ちゃんと結婚するってずっと思ってたの?」
健と智の話してたのも、丸山さんはこの事を聞きたかったんだろうなと思った。私と健の関係は周りの人が見たら不思議だと思うし、他の人に何度も聞かれたことがある。
「健って結構繊細だから気を遣いすぎるんですよね。私がずっと独身だから、それ自分のせいだって感じてるんですよ。だから私の事好きなわけではなくて、責任取ろうって勝手に思ってたみたいで」
「責任って、若いのに凄いこと思ってるんだね」
「そう思うでしょ?あの人達が高校生になったくらいから、別に手もそんなにかからなかったし私が結婚してないのはあくまで自分の責任なのに、それに実家のあった地域が1番悪いです。女で30超えて結婚してないのは奇人扱いされるから健もそれに洗脳されてるんです」
「田舎はそうだろうね」
「だから私は自分の実家の地域嫌いなんですよ、村社会が強く残ってて、子供にすらマウントとってくるみたいな」
「でも山の上村もそうじゃないの?」
「あー、でも違いますね。二つの村は対照的っていうか」
「どんな風に?」
「私の実家があった村は結婚しても奥さんが逃げちゃうことが多くて、もう人が減っちゃって今は隣の市に合併されてます。
山の上村は村根性は同じくらい凄いですけど、夫婦仲がいいっていうか、みんな幸せそうに暮らしてるし。あんな場所にあるのに子供も一学年二十人はいるし、なんか未来がある感じがしますね。何が違うんだろ?」
「あれだろ?ラブホテルに一時間並ぶくらいみんなsexが好きなんだろ?」
「…せめてもっとぼかして言って下さい」
「じゃあ性行為好き」「それもちょっと」
「じゃあ、メイクラブ好き」「あーっ、放送されなくて良かった」
私は登山の時にメイクラブ発言をした事を思い出して、大きく息を吐いた。
「あれは流石に放送できないから、甘いメイクラブは永遠に私達に必要です」
私は声にならない声を出した。
彼は電話越しにヒッヒッヒッとお腹を抱えているのがわかるくらい笑っていた。
結局今日も一時間ぐらい話してしまった。
日に日にどうかしていってる自分がいる。一方でこのまま深みに嵌るな「かなり危険な相手だぞ」と警告している自分もいる。
今日は木曜日で丸山さんが家に来るって言ってる土曜まであと二日、本当にどうしたらいいんだろうか。
健の心配そうな顔を思い出す度に、私は開き直るということを覚えた。
「電話ぐらいしたっていいでしょ?別に会ってるわけじゃないから、セーフ」
自分でも段々と底無し沼に嵌っていっている気はしている。でも丸山さんと電話することを、止められないのだ。
「いつから健君は家にいるの?」
丸山さんに電話越しにそう聞かれた。
「最初に見たのは私が十歳のお正月ですね、それまでは智しかいなくて、お母さんばっかり赤ちゃんの世話してズルイってブー垂れてたんですけど、それがある日突然1人赤ちゃんが増えてたんです」
「どうして亜紀ちゃんの家に来ることになったの?」
「それがわかんないんですよね、健の親が世話をしなかったってのは、後日聞いたんですけど。何で健が家にいるのかは不明なんです」
「それで普通に世話してる亜紀ちゃんのお母さんも亜紀ちゃんも凄いよ」
「私もお母さんも赤ちゃん大好きなんですよね。赤ちゃんってふにゃふにゃで柔らかくてミルクのいい匂いがして、守ってあげなきゃって思うんです」
「俺は新幹線とかで泣いててうるせぇなくらいしか思ったことなかったから、そんなに可愛いの?」
「男の人にはわかんないかもしれないけど、どの赤ちゃんも可愛いんです。母性本能が刺激されるというか、だから新幹線で泣いてても温かく見守ってあげて下さい」
「亜紀ちゃんがそういうなら、赤ちゃんの泣き声を可愛いなって思えるように修行するよ」
そう彼は笑った。
「だから健も来たから本当に嬉しくて、お母さんが世話してない方の赤ちゃん抱っこして私の赤ちゃんってやってました」
「それもう本当の弟だね。てっきり中学生くらいから家に来たのかと思ってた」
「そうです、だから本当の弟ですって。むしろ八歳から育てて来たから、自分の子供みたいな愛情もあります」
「亜紀ちゃんと話してればわかるよ」そう彼は優しく言った。
「だから赤ちゃんの頃、お母さんがおっぱいあげてるの見てそれが羨ましくて、こっそり2人に私もあげて見たことあります」
「えっ?!」
丸山さんが怪訝な顔をしたのが想像がついた。
「本当馬鹿でしょ?十歳だったからわかんなかったんです。でも吸わせ方もわかんないし、結局すぐに母に見つかって赤ちゃんに可哀想な事するなって酷く怒られました」
「急にあいつらがムカついてきたわ、亜紀ちゃんのおっぱい吸ってたなんて」
「…丸山さん、何か違う意味に聞こえるからその言い方やめて下さい」
そう言うと丸山さんはわざとらしく「そうかな?」と言った。
「じゃあさ、何で赤ちゃんの頃からいるのに健君は亜紀って呼び捨てで呼んでるの?」
「あれは周りの大人が悪いですよ、健にいちいち本当の姉ちゃんじゃないから、迷惑かけるな、姉ちゃんって呼ぶなって言ってくるんですよ」
「子供にそんな事言ってどうするんだろうな。それで健君は亜紀ちゃんと結婚するってずっと思ってたの?」
健と智の話してたのも、丸山さんはこの事を聞きたかったんだろうなと思った。私と健の関係は周りの人が見たら不思議だと思うし、他の人に何度も聞かれたことがある。
「健って結構繊細だから気を遣いすぎるんですよね。私がずっと独身だから、それ自分のせいだって感じてるんですよ。だから私の事好きなわけではなくて、責任取ろうって勝手に思ってたみたいで」
「責任って、若いのに凄いこと思ってるんだね」
「そう思うでしょ?あの人達が高校生になったくらいから、別に手もそんなにかからなかったし私が結婚してないのはあくまで自分の責任なのに、それに実家のあった地域が1番悪いです。女で30超えて結婚してないのは奇人扱いされるから健もそれに洗脳されてるんです」
「田舎はそうだろうね」
「だから私は自分の実家の地域嫌いなんですよ、村社会が強く残ってて、子供にすらマウントとってくるみたいな」
「でも山の上村もそうじゃないの?」
「あー、でも違いますね。二つの村は対照的っていうか」
「どんな風に?」
「私の実家があった村は結婚しても奥さんが逃げちゃうことが多くて、もう人が減っちゃって今は隣の市に合併されてます。
山の上村は村根性は同じくらい凄いですけど、夫婦仲がいいっていうか、みんな幸せそうに暮らしてるし。あんな場所にあるのに子供も一学年二十人はいるし、なんか未来がある感じがしますね。何が違うんだろ?」
「あれだろ?ラブホテルに一時間並ぶくらいみんなsexが好きなんだろ?」
「…せめてもっとぼかして言って下さい」
「じゃあ性行為好き」「それもちょっと」
「じゃあ、メイクラブ好き」「あーっ、放送されなくて良かった」
私は登山の時にメイクラブ発言をした事を思い出して、大きく息を吐いた。
「あれは流石に放送できないから、甘いメイクラブは永遠に私達に必要です」
私は声にならない声を出した。
彼は電話越しにヒッヒッヒッとお腹を抱えているのがわかるくらい笑っていた。
結局今日も一時間ぐらい話してしまった。
日に日にどうかしていってる自分がいる。一方でこのまま深みに嵌るな「かなり危険な相手だぞ」と警告している自分もいる。
今日は木曜日で丸山さんが家に来るって言ってる土曜まであと二日、本当にどうしたらいいんだろうか。