第41話 習字が得意な人

文字数 906文字

丸山さんと外に出ると今日は秋の青空が広がり帽子岳の山頂まで見渡せた。

駅まで徒歩5分の道のりを二人で歩く。

「今日は衝撃的な事が多かったな」と丸山さんが言ったので「本当にごめんなさい」と謝った。

「いや別に謝ることじゃないよ。後何個ぐらい衝撃的なことは残ってんの?」と聞かれた。

「他の人からみたら大した事ないかもしれないけど、むやみに話したくない事は二、三個はあります」と答えると、彼は優しく笑った。

「じゃあそれは話して貰えるまで楽しみに待ってるよ」

この人は今日の話を聞いても何とも思ってないのだろうか、そう気になっても口には出せない。

路肩でピンクのコスモスが風に揺れている。

「再来週俺は土曜日休みなんだけど、亜紀ちゃんの家に来ていいかな?」

「それは全然いいんですけど、丸山さんは今日の話聞いても何とも思ってないんですか?普通は逃げ出す案件だと思うんですけど」

「何で?」

彼に不思議そうに聞かれたのでついつい口が滑った。私の口は脳とは別の思考回路を持っていてわ勝手にどんどん喋りだすのだ。いつもの悪い癖だ。

「丸山さんって習字が凄く上手だし、話してても楽しいし、素敵だなって思って見てたんです。あーもう何言ってんの自分、もういいや。でもいきなり健と智が来たのであーもう駄目だって思ったんです。」

「それは何で?」

「何でかというと難しいんですけど、私にも今まで好きだって言ってきてくれて、もしかしたら私も好きになれるかもしれないって本気で付き合うことを考えた男の人が五人いたんです。

でもその人達私の家庭の事情知ったり健のこと知ったら、みんなさーって逃げていったんです。本当に音もたてずにさーって。だから今回も知られちゃったって」

「そいつらが何で逃げてったかはわからないけど、亜紀ちゃん悪いことしたの?人に言えない恥ずかしいことなの?凄く後悔してるの?」

丸山さんの顔を見て答えた。

「全然後悔もしてないし、恥ずかしくもないし、悪くもないです」

「じゃあ気にする必要ないよ」

彼の真剣な眼差しを見てすぐに目を逸らした。危うく本気で好きになりかかる所だった。
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