第63話 ちゃんとした場所

文字数 965文字

「その年の村長選で僅差で現村長が勝ったんです。そしたらほとんどの人が村長派に寝返りました」

「見事な掌返しだな」
「クルクルですよ。村で生きるってそういうことですからね」


「役場もダムのお陰で隣町と比べてこんなに税金安いですよ、公共サービス充実してますよってチラシを毎年全戸配布し出したんです。後はダムの歌を斉藤君が作ってくれて毎年夏に小学校に歌いに来てくれてます」

「……ダムの歌か」
「村の子供は純粋だから喜んで歌ってます。途中ラップの部分もあるんですよ」

「ラップ?」
ここ何年かで覚えたラップパートを左手の手振りつきで披露した。
「ダムにcome 熊に噛む ママに会う」

「何だよそれ」彼がそう言って笑ったので、私もつられて笑った。

「実はさっき丸山さんが助けた女の子って前村長のお孫さんなんですよね。だからどうなるか心配なところではあるけど、でもまぁ、村の人が何とかしてくれると思います」

「そう」と丸山さんは言った。彼が悲しそうな顔をしている気がしたので

「元カレよりタチ悪いですか?」と努めて明るく聞いた。

「男ってやっぱり外見が一番な奴多いんだよ。亜紀ちゃんは綺麗な顔立ちして性格も良い。いくら、あいつらがいたとしても、色々あったとしても、どうして独身で彼氏もずっといないんだって不思議だったから、まぁそれくらいはいいよ」

私はそれを聞いて思わず笑った。

「私が独身でずっと彼氏もいない一番の原因は自分の性格の悪さだってわかってますから」

「そんなに悪いとは思えないけど」
「友達とかには凄く寛容だと思います。

でも恋愛相手とか結婚相手にはちゃんと心の底から好きだって思えないと嫌なんです。

だから婚活してても相手の粗探しばっかりして。しりとり好きな人だけじゃなくて、いい人そうな人いっぱいいたんですよ。でもダメなんです。私凄く神経質で完璧主義なんです」

「そう」と彼は笑った。

「それでも結婚しないと子供産めないって思って、何か相手に好きになれる所あるかもと思って会うんですけど、段々と一緒な空間にいるのも苦痛になってくるんです。

丸山さんのことテレビで見て神経質って、この人色々拗らせ過ぎって笑えませんでした。だってどこからどうみても自分の方が神経質で色々拗らせてるから」
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