第51話 ちゃんとした場所
文字数 1,560文字
丸山さんを助手席に乗せてダムまでの坂道を登りはじめた。今日は生憎の曇り空で少し薄暗い。まだ登りはじめということもあり、道路沿いに民間や小さなスーパー、郵便局が点在している。
「それにしても凄い坂道だね」
「五年前ここに来た時に、ここを毎日通勤しなきゃいけないってことで軽からこの普通車に変えました」
車内のテレビでは俳優さんの謝罪会見の様子が流れていた。
「この人何したんですかね?」
「不倫だってさ」
「そうなんですか、家庭内で奥さんに謝っておけばいいだけなのに今は大変ですね」
何てことない世間話をしたつもりだったけれど、私は配慮が欠けている。
「あぁー」と彼が苦しそうな声を出したので「どうしました?酔いました?」
「いや、大丈夫。謝罪会見を見てたら五年前の自分思い出したんだよね」
私は急いでチャンネルを変えた。
「本当に配慮が無くてごめんなさい」そう言うと「いや大丈夫、俺自分への戒めの為にこういうの目を背けずに見るようにしてるから」
自分でチャンネルをさっきのに戻してしまった。
「私五年前ここに引っ越してきて、その時期忙しくて、テレビをろくに見てなかったんでよく知らないんです。凄く配慮が無いこと聞いてもいいですか?」
「いいよ」「丸山さんも謝罪会見したんですか?」
「してないよ、相手の仕掛けてきた女がテレビのインタビューとかで嘘八百並べてたんだけど、相手の頭が致命的に悪かったみたいで、実現不可能なことを沢山並べてたんだよ。
おまけにテレビ局によって話す内容全く違うの。
それで「あっこの人関わっちゃいけない人だ」って業界もお茶の間もなったみたいで、いつの間にかナァナァになって戻れた」
「そうなんですね、良かった」
私がそう言うと
「5年越しに心配してくれて嬉しいよ」と彼は笑った。
本格的に山の中に入り、窓越しの景色は林しか見えなくなった。
「丸山さんって昔パーマかけてませんでした?」
「よく覚えてたね、かけてたよ」
ここで私の悪い癖が出てしまう、要らないことまで言ってしまう悪い癖が。
「でしょ?今ふと思い出したんです。何か変なパーマかけてたって、変なって言っちゃいけないじゃん!あーもう自分のバカ!」
私が取り乱すと丸山さんは笑った。
「いいよ、本当に変なパーマだったし」
「本当にごめんなさい、変じゃなくてアーティスティックなパーマかけてた事覚えてます」
彼は笑いながら「余計悪くなったぞ」と言った。
「じゃあアーティスティックじゃなくて二本角の帽子かぶってる海賊みたいな髪型」
「髭も伸ばしてたからな!それ余計悪くなってるから」
「じゃあ歴史振り返り番組で見るモノクロでみんなでギター弾いて歌ってる感じの髪型」
「ラブ&ピース!ヒッピーかよ!!あのパーマとは違うだろ」
「じゃあエクトル・ベルリオーズみたいなパーマ」
さっきまでノリノリで言葉を被せてきていた彼が一瞬戸惑ったのがわかった。
「何で俺がパーマの見本にしてた人当てちゃうの?」
ふと横をみると彼が真剣な眼差しでこっちを見ていたので、ちょっと不味いかなと思った。
私が適当に「…WWikipedia見たから」と言うと
「そのくだり載ってねぇから!誰にも言ってないし。そうか小学校の先生だからピアノ弾けるのか」と言われた。
「いや、私ピアノは貨物列車で限界です。しかも音楽の先生に独特って言われるし」
すると彼がいつものようにひっひっひっと笑った。
「じゃあ何でエクトル・ベルリオーズ知ってんの?」
「どんな人か全く知らないけれど、あの人と毎日音楽室で目が合うんです」
「恋の始まりみたいに言うな」と言ってフロントガラスに彼の顔が緩んだのが映った。
「それにしても凄い坂道だね」
「五年前ここに来た時に、ここを毎日通勤しなきゃいけないってことで軽からこの普通車に変えました」
車内のテレビでは俳優さんの謝罪会見の様子が流れていた。
「この人何したんですかね?」
「不倫だってさ」
「そうなんですか、家庭内で奥さんに謝っておけばいいだけなのに今は大変ですね」
何てことない世間話をしたつもりだったけれど、私は配慮が欠けている。
「あぁー」と彼が苦しそうな声を出したので「どうしました?酔いました?」
「いや、大丈夫。謝罪会見を見てたら五年前の自分思い出したんだよね」
私は急いでチャンネルを変えた。
「本当に配慮が無くてごめんなさい」そう言うと「いや大丈夫、俺自分への戒めの為にこういうの目を背けずに見るようにしてるから」
自分でチャンネルをさっきのに戻してしまった。
「私五年前ここに引っ越してきて、その時期忙しくて、テレビをろくに見てなかったんでよく知らないんです。凄く配慮が無いこと聞いてもいいですか?」
「いいよ」「丸山さんも謝罪会見したんですか?」
「してないよ、相手の仕掛けてきた女がテレビのインタビューとかで嘘八百並べてたんだけど、相手の頭が致命的に悪かったみたいで、実現不可能なことを沢山並べてたんだよ。
おまけにテレビ局によって話す内容全く違うの。
それで「あっこの人関わっちゃいけない人だ」って業界もお茶の間もなったみたいで、いつの間にかナァナァになって戻れた」
「そうなんですね、良かった」
私がそう言うと
「5年越しに心配してくれて嬉しいよ」と彼は笑った。
本格的に山の中に入り、窓越しの景色は林しか見えなくなった。
「丸山さんって昔パーマかけてませんでした?」
「よく覚えてたね、かけてたよ」
ここで私の悪い癖が出てしまう、要らないことまで言ってしまう悪い癖が。
「でしょ?今ふと思い出したんです。何か変なパーマかけてたって、変なって言っちゃいけないじゃん!あーもう自分のバカ!」
私が取り乱すと丸山さんは笑った。
「いいよ、本当に変なパーマだったし」
「本当にごめんなさい、変じゃなくてアーティスティックなパーマかけてた事覚えてます」
彼は笑いながら「余計悪くなったぞ」と言った。
「じゃあアーティスティックじゃなくて二本角の帽子かぶってる海賊みたいな髪型」
「髭も伸ばしてたからな!それ余計悪くなってるから」
「じゃあ歴史振り返り番組で見るモノクロでみんなでギター弾いて歌ってる感じの髪型」
「ラブ&ピース!ヒッピーかよ!!あのパーマとは違うだろ」
「じゃあエクトル・ベルリオーズみたいなパーマ」
さっきまでノリノリで言葉を被せてきていた彼が一瞬戸惑ったのがわかった。
「何で俺がパーマの見本にしてた人当てちゃうの?」
ふと横をみると彼が真剣な眼差しでこっちを見ていたので、ちょっと不味いかなと思った。
私が適当に「…WWikipedia見たから」と言うと
「そのくだり載ってねぇから!誰にも言ってないし。そうか小学校の先生だからピアノ弾けるのか」と言われた。
「いや、私ピアノは貨物列車で限界です。しかも音楽の先生に独特って言われるし」
すると彼がいつものようにひっひっひっと笑った。
「じゃあ何でエクトル・ベルリオーズ知ってんの?」
「どんな人か全く知らないけれど、あの人と毎日音楽室で目が合うんです」
「恋の始まりみたいに言うな」と言ってフロントガラスに彼の顔が緩んだのが映った。