第157話 一時間だけ

文字数 1,113文字

「爽やかな日曜の真昼間に何言ってんの?」
動揺する私を見て彼は嬉しそうにしている。

「爽やかな日曜の真昼間に何したの?そんなに俺としたかったの?」

「……いや、これは罠にはめられた」
今まで楽しそうだった彼が急に呆れ顔になった。
「ここ落とし穴ですって書いてあるのに看板の字が読めないから自分から落ちたんだろ」

今までどうせ使わないからと看板の字を勉強しようとしなかった。確かに完全に私が悪い、でも私にだって言い分はある。

「してって言われた事しただけなのに、怒られた」
そう言い返すと彼は呆れたように笑った。
「わかったわかった、怒った事は悪かったよ、じゃあ楽しませて貰ったよ。今日富山のホテルで深夜にもう一回亜紀の体重の重さと体の柔らかさを思い出す、これで服脱がしてたらどんな感じか想像して楽しむから」

「そっちの方が嫌だ」
彼は得意気に笑い、車道の信号が青に変わると駅前のオゾンモールには次から次へと車が入っていく。

「もうすぐ十二月だろ?単独ライブの準備もあるし、特番もあるし正月休みが終わるまで死ぬほど忙しいんだよな」

「そっか、お正月ってなんか特番とかいっぱいあるもんね」

寂しい気持ちで相槌を打つと広い子供の遊び場から子供たちの元気な声が聞こえてきた。

「だから今までみたいに昼は絶対に来れないから夜来れたら来てもいい?」

彼が新幹線駅を見ていたので私も駅を見てもうすぐ駅に着くなと悲しくなった。

「うん待ってる。寝てたら勝手に入って起こして」
そう言うと彼は私の目を見て少し笑った。

「本当にわかってるのか、わかってないのかわからんな」
頭が足りない私は深く考えずに「わかってるよ、会えるだけで嬉しい」と彼の腕を組んだ。

「村人見てるかもよ」
「だってあと少ししか一緒にいられないし」
そう言って彼にもたれかかった。ここまで駅の近くに来たら駅の利用者しか通らないし、滅多なことで村人に会わないとわかっていたからだ。

私が甘えてきたことに気を良くした彼がニコニコ顔で言った。
「一緒に富山まで行くか」
「……それはちょっと大変」
「何でだよ!ここは少しでも一緒にいたいから行くって言う場面だろ」と彼は呆れたように笑った。

彼から目を離し前を見ると、三メートルほど離れた場所で誰かか私達を凝視している。どこかで見覚えがあるような、いや凄く見覚えが……よくよくみると美雪先生だった。

彼女はいけない物を見てしまったという表情で「亜紀先生こんにちは」と言うと早足でオゾンモールに向かっていってしまった。

そういえば美雪先生の旦那さん今日から二泊三日で東京出張するって言ってたな。


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