第243話   深夜の訪問者

文字数 1,200文字

こんなに悪意をぶつけてくる人に負けたくない、ショックな様子を出さないように平然と彼が子供の時の話に相槌を打っていた。

お母さんによると彼は子供の頃から勉強が好きで中高と品行方正で優秀な成績だったのだが、大学は行かずにお笑いの道に行ったそうだ。お母さんはその最大の理解者で彼の背中を喜んで押したらしい。

彼から聞いていた話と違いすぎる。
人のお母さんに対して失礼だけど、ちょっとこの人変だ。

今までの経験から考えると言い返すことは絶対にしない方がいい、その通り暫く相槌を打ってあげているとスッキリしたようだ。

お母さんが「さあ盛り付けしましょう」と機嫌よく慣れた様子で食器棚からオムライスのお皿を四つ取り出したので、「四人分ですか?」と尋ねると「重明の兄も今からここに来るって言うから」とさも当然かのように答えられた。

「お兄さんもいらっしゃるんですか」
お母さんとお兄さんから「お願いだから別れてくれ」と頭を下げられる図が簡単に思い浮かんでしまい、また気分が落ちた。

オムライスとサラダを四つ作り終わり食卓に並べ終わった時、玄関の戸がガチャっと開く音がした。彼が帰ってきたようだ。

「ただいま」と言う声と共に彼がリビングに入ってきた。余程急いで帰ってきたらしく、激しく息切れしている。

「母さん何で来たの?」
「亜紀さんに一目でいいから会いたくて今日来たらいるかなって思ったの」

彼が私の方に目をやったので「お帰りなさい」と言うと
「ごめん、ごめん、これでも早く帰ってきたから」と甘えた顔を見せた。けれどもさっきお母さんから受けた攻撃がじわじわと私を侵食しているから笑顔を見せられない、心が痛い。

お母さんがすかさず「重明、亜紀さん、ご飯食べましょう。冷めちゃうから。ほら重明の好きなオムライス」と優しい笑顔を見せた。

彼がオムライスを指差し「何で三人なのに四つあるの?」と言ったその時だった、部屋のインターホンが鳴った。

お母さんが手慣れた様子で玄関のオートロックを開けるボタンを押した。
「うわ嫌な予感」と彼が呟いた。

しばらくするともう一回インターホンが鳴り嬉しそうにお母さんが玄関のドアを開けに行き彼も慌てて玄関についていった。

「何で兄ちゃんが来るの?!姉ちゃんかと思ってた」彼が大声で叫ぶのが聞こえる。
お兄さんが本当に来たらしい、とにかく私も挨拶だけはしようと重い足取りで玄関へと向かおう。

玄関にはお母さんに何か言っている一人の男性がいた、彼に似てシュッとした顔をしている、この人がお兄さんか。

あれ、どこかで見た事があるような……
次の瞬間それが誰だか思い出した。

そこにいたのは大学の時に凄くお世話になったゼミの先生だったからだ。そしてやっとのこと声がでた「先生!義政先生!」


「事件が起こる時には休む間も無く立て続けに起こる」校長先生がよく言っている生徒指導の鉄則をまざまざと思い知らされた。色々起こりすぎて頭がついていけない。


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