第280話 追撃される
文字数 1,494文字
「あー本当に今週はツイてないな」
私が力なくそう呟いた瞬間に「お待たせしました、トマトリキュールです」と若い男の店員さんが飲み物を持って来た、と思った瞬間、店員さんが個室の敷居につまづいて転んだ。
トマトリキュールは宙を舞い私の顔と着ていた白いセーターに見事に直撃した。
……あ、新しく買ったセーターだったのに。
落ち込む暇なく嫌な予感がしたので、彼を見ると「すいませんでした」と泣きそうな顔で謝る店員の若い男の子に今にも怒鳴ろうとしていた。
慌てて間に割って入った。
「お兄さん、こういう時はすぐに何か拭くもの持ってきて」
お兄さんは慌てて厨房に引っこんでいった。
取り敢えず彼を怒らせないようにしよう。
「あの店員さんだって、きっと田舎から上京して慣れない大都会で夢叶えようと一人で頑張ってるかも」
「こういう時に怒っておかないと舐められておざなりな対応されるだろう?今のは完全に向こうのミスだ」
「まぁそれも正論だよね、でも私の正論も聞いて。悪意を持って溢されたなら怒らなくちゃいけないと思うけれど、事故でしょ?」
「甘い、そりゃあ保護者に怒り方が甘いってクレームつけられるな」
「それ今言わないでよ!……だっていいじゃん、わざとじゃないんだし、洗えば落ちるよ」
「俺らは金払って来てる客だ、こんな目に遭わされて正当に文句つける権利があるし、再発防止の為にもここはしっかり言うこと言っておかないといけない」
どこからどう見ても彼の言うことに分があるのは明白だ。私に残るのは感情論だけしかない。
「可哀想になるんだよね、毎年クラスに一人は頭も良くない運動もできない友達も少ない鈍臭い子いて、今まで出会ったあの子達はちゃんと大人になって働けてるのかなって心配してる。
あの店員さんも注文の取り方も何か鈍臭かったしさ、きっといろんな場面で滅茶苦茶怒られながらも毎日頑張ってるんだろうなって思うし、確かに甘いんだけど、いいじゃん。洗えば落ちるよ、きっと」
この白のセーターにトマトのシミは落ちないかもしれない、でもそんなことどうでもいい。
団蔵さんとポテトサラダさんは私に味方し出した。
「亜紀さんって本当に北澤さんみたいに聖人ですね」「そうです、北澤さんっぽいです」
「あっ本当?北澤さん優しそうだからこれは褒められてるんだよね」
彼は呆れたように「わかった、わかった。じゃあ俺が北澤を越す聖人になってやる」と言うと戻ってきた泣き腫らした店員のお兄さんと店長さんに聖人対応し出した。
「いや、本当に大丈夫ですよ、失敗は誰にでもあるから、亜紀どうせその服cuで買ったんでしょ?」
わざわざそんな事言うなと思ったが仕方がない。
「……そう、本当に安物だし、洗えば落ちるだろうから気にしないで下さい」
団蔵さんとポテトサラダさんは聖人っぽく振る舞っている彼を見て笑っていた。
結局帰る時にお代は結構ですのでと言われたがそんな訳にはいかない。それに彼が「流石にそんなの申し訳ないから」と固辞すると、かなりの金額のお店の金券を強引に押し付けられてしまった。
四人で店を出ると外は小雨がふっていた、サラリーマンの団体が雨にも負けず楽しそうに道を行き交っている。
彼が金券を渡してきた。
「健にでもあげれば?」
「ここは健の活動範囲じゃないから」
その金券を団蔵さんとポテトサラダさんに半分ずつ渡した。
「家族やお友達と行って下さい」と言うと「亜紀さんって本当に北澤さんみたいです」と凄く感謝された。
団蔵さんたちも健と同じように夢を追って頑張っているのだ。健には直接ご飯食べさせたり服買ってあげたりできるし。
彼はそんな私を呆れたように見つめ「北澤みたいだな」と笑った。
私が力なくそう呟いた瞬間に「お待たせしました、トマトリキュールです」と若い男の店員さんが飲み物を持って来た、と思った瞬間、店員さんが個室の敷居につまづいて転んだ。
トマトリキュールは宙を舞い私の顔と着ていた白いセーターに見事に直撃した。
……あ、新しく買ったセーターだったのに。
落ち込む暇なく嫌な予感がしたので、彼を見ると「すいませんでした」と泣きそうな顔で謝る店員の若い男の子に今にも怒鳴ろうとしていた。
慌てて間に割って入った。
「お兄さん、こういう時はすぐに何か拭くもの持ってきて」
お兄さんは慌てて厨房に引っこんでいった。
取り敢えず彼を怒らせないようにしよう。
「あの店員さんだって、きっと田舎から上京して慣れない大都会で夢叶えようと一人で頑張ってるかも」
「こういう時に怒っておかないと舐められておざなりな対応されるだろう?今のは完全に向こうのミスだ」
「まぁそれも正論だよね、でも私の正論も聞いて。悪意を持って溢されたなら怒らなくちゃいけないと思うけれど、事故でしょ?」
「甘い、そりゃあ保護者に怒り方が甘いってクレームつけられるな」
「それ今言わないでよ!……だっていいじゃん、わざとじゃないんだし、洗えば落ちるよ」
「俺らは金払って来てる客だ、こんな目に遭わされて正当に文句つける権利があるし、再発防止の為にもここはしっかり言うこと言っておかないといけない」
どこからどう見ても彼の言うことに分があるのは明白だ。私に残るのは感情論だけしかない。
「可哀想になるんだよね、毎年クラスに一人は頭も良くない運動もできない友達も少ない鈍臭い子いて、今まで出会ったあの子達はちゃんと大人になって働けてるのかなって心配してる。
あの店員さんも注文の取り方も何か鈍臭かったしさ、きっといろんな場面で滅茶苦茶怒られながらも毎日頑張ってるんだろうなって思うし、確かに甘いんだけど、いいじゃん。洗えば落ちるよ、きっと」
この白のセーターにトマトのシミは落ちないかもしれない、でもそんなことどうでもいい。
団蔵さんとポテトサラダさんは私に味方し出した。
「亜紀さんって本当に北澤さんみたいに聖人ですね」「そうです、北澤さんっぽいです」
「あっ本当?北澤さん優しそうだからこれは褒められてるんだよね」
彼は呆れたように「わかった、わかった。じゃあ俺が北澤を越す聖人になってやる」と言うと戻ってきた泣き腫らした店員のお兄さんと店長さんに聖人対応し出した。
「いや、本当に大丈夫ですよ、失敗は誰にでもあるから、亜紀どうせその服cuで買ったんでしょ?」
わざわざそんな事言うなと思ったが仕方がない。
「……そう、本当に安物だし、洗えば落ちるだろうから気にしないで下さい」
団蔵さんとポテトサラダさんは聖人っぽく振る舞っている彼を見て笑っていた。
結局帰る時にお代は結構ですのでと言われたがそんな訳にはいかない。それに彼が「流石にそんなの申し訳ないから」と固辞すると、かなりの金額のお店の金券を強引に押し付けられてしまった。
四人で店を出ると外は小雨がふっていた、サラリーマンの団体が雨にも負けず楽しそうに道を行き交っている。
彼が金券を渡してきた。
「健にでもあげれば?」
「ここは健の活動範囲じゃないから」
その金券を団蔵さんとポテトサラダさんに半分ずつ渡した。
「家族やお友達と行って下さい」と言うと「亜紀さんって本当に北澤さんみたいです」と凄く感謝された。
団蔵さんたちも健と同じように夢を追って頑張っているのだ。健には直接ご飯食べさせたり服買ってあげたりできるし。
彼はそんな私を呆れたように見つめ「北澤みたいだな」と笑った。