第196話 クリスマスイブ

文字数 1,383文字

健と健の彼女と寮近くのいつもの焼肉食べ放題のチェーン店で会った。彼女は付き合って半年経ってから紹介してというルールを決めてあったけれど、凛ちゃんがどうしても私に会いたかったらしい。

凛ちゃんは地下アイドルをしている。外見は可愛いけれどちょっと変わった子だった。

「お姉さんは群馬に住んでるんですよね?午前中にここにいるってことは昨日どこかに泊まったんですか?」
健も気を使って聞いてこなかったことを平然と聞いてくる。
「えーっと昨日はね付き合ってる人の家でその人がベロベロに酔ってるのを介抱してたかな」
「もーお姉さん清純ぶっちゃって嘘ばっかり、昨日の夜はしっかりと楽しんだんですよね?あっちょっと!早く注文取りに来なさいよ!」

私に対しても失礼だけど、店員さんに対して凄く横柄。こんな子と付き合ってるんだ。ふとそう思った瞬間に健と目が合ってしまった、しまったな今私が不快感を持ってること気づかれた。鋭い子だからきっと気づいただろう。

凛ちゃんがトイレに行くと「あれでも可愛い所あるんだよ」と健がフォローしたので「若いんだから自分の好きなように付き合いなさい」と私もフォローした。

健のお母さんの事情を話すと「あの村だから、そんなことだろうと思ったよ」と言ってそれ以外に何も言わなかった。私もそれ以上何も言えない。

牛タンを一枚自分のお皿に乗せてレモン汁をかけた。

「顔合わせなんだけど、とにかく私は一緒に行くから」「ありがとう、助かるよ」
「智と美子ちゃんはどうする?」「本人達が来たかったら来て貰って」「聞いとくよ」

凛ちゃんが戻ってきたのでこの話を止めた。健もまだ付き合いたての彼女にここまで話したくないようだったし。

「お姉さん、何真剣な顔してるんですか?おでこのシワ余計に目立っちゃいますよ」

これが天然で言ってるなら許せる、でも明らかに悪意を持って言ってくるからな……。
男にはわかるまい。

夜アパートに帰りお風呂あがりにテレビを見ていると彼から電話がかかってきた。
「もしかして本当に家帰ったの?」
「うん、家でぐーたらしてる」
「何でだよ!あんな事言っておきながら家に居てくれてるまでがツンデレのセットだろ?玄関開けたら裸エプロンで仕事休んだよって」
「裸エプロンって不衛生じゃん」
私のつれない返事に彼が苛ついた。
「俺の為に仕事休んでくれよ!」
「私の仕事何だと思ってんの!」

少し気まずい空気が流れる。キツく言い返し過ぎた。こういう時はトーンダウンすると相手もトーンダウンすることを経験から知っている。

「私だって一緒にいたいけどそんな簡単に休めないから」
「まぁそうだよな、じゃあ朝すぐ帰ったの?」
「それがね」
彼に今までの経緯を話した。
「一月三日か、あー夕方まで地方ロケだな」
思わず笑ってしまった。
「来てくれるつもりだったの?」
「当たり前だろ?付き合ってるんだから」
ここで結婚してないじゃんと深追いしない所が自分のダメな所だとわかってはいる。けれど、怖くてできないのだ。
「何それ」と笑ってごまかした。

明日は子供が来ないから大分溜まっていた仕事を片付けられそうだ。学校の門松も出さないといけないし、新年を迎える準備が沢山ある。

もうすぐ色々あった今年も終わりを迎えようとしている。







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