第293話 同窓会

文字数 1,529文字

金曜日の朝のことだった。
目が覚めると夜中の一時に彼から「ごめんね」とメッセージが入っていた。


何のことだろう、訳がわからず困惑する。真意を問いただしたいけれど、夜遅い仕事が多い彼は今の時間寝ているだろう。

とにかく仕事に行かなくてはならないのでテレビをつけた。

着替えをしてメイクをしていると何故だか朝のワイドショーに彼と北澤さんが映し出された。

何かやらかしたのか、心配になり画面に釘付けになる。女性アナウンサーが神妙な面持ちで原稿を読み上げた。

「五年前、ラビッツの丸山さんが女性とトラブルを起こした件で新展開がありました。相手方の女性が昨日ブログにて新事実を明らかにしました」

画面にはブログらしき文字列が映し出され、女性アナウンサーが代読してくれた。

「五年前の件なんですが、妊娠して無理やりおろさせられたって言ってたけれど、実はラビッツの丸山さんと二人で会ったことはないです。とにかく有名になりたくて嘘ついちゃいました。ごめんなさい。懺悔します⭐︎」

開いた口が塞がらない、彼を大分苦しめたのにちょっと軽すぎない?

画面が切り替わり彼が北澤さんとどこかの建物の外でインタビューを受けている。

彼が威勢のいい声で喋った。
「いや、だから僕は当時から言ってましたけれどあの女性と個人的に会ったことはないです」

記者さんが彼に聞いた。
「その女性に対して言いたいことはありますか?」

彼の声のトーンが下がった。
「いや、この間今付き合ってる彼女とその話をしてて、彼女がその女性のこと恩人でしょ?って言うんですよ」

北澤さんが合いの手を入れる。
「亜紀ちゃん何でまたそんなこと言ったの?」

「当時は仲良くしてる女性が何人もいて、そういういい加減な生活してたんですよね。

だから本当にそういう責任がとれない事態になってたかもしれないし、他の誰かにもっと酷く足を掬われてかもしれないから、俺の目を覚まさせてくれたその人は恩人だって言うんですよね」

確かに二日ほど前に電話で彼とこんな会話をした。

北澤さんが合いの手を入れる。
「今は女の人と遊んで無いんだろ?」
「してない、店も行ってない。彼女が滅茶苦茶怖いから」

北澤さんは言わなくていいことまで付け足した。
「風俗通い写真紙に撮られたときどうなったんだっけ?」
「家まで謝りに行ったら、正座させられて店でのプレイの詳細内容言わせられて、あれは興奮したな」

……何言ってんの?自分から正座したんじゃん

レポーターさんがこう言った。
「凄くキツイ彼女ですね?」
「俺はキツい女が好きなんだよ」

北澤さんが口を挟む。
「伝説のお前の巻頭グラビアの雑誌見て亜紀ちゃん何ていったんだっけ?」
「キモいの集大成」

レポーターさん達が少しざわついて、こんな質問が来た。
「手厳しい彼女と一緒にいて楽しいんですか?」
「楽しいよ、彼女のこと愛してるから」

北澤さんがまた余計な合いの手を入れた。
「お前亜紀ちゃんに尽くすの好きなんだよな?」
「好きだよ、車好きの男は車カスタマイズする、バイク好きの男はバイクカスタマイズする、俺は彼女が好きだから彼女を綺麗にするのが趣味」

リポーターの人が聞いた。
「具体的にはどんな世話するんですか?」
「爪切ってあげたり、最近おでこの皺が目立つからクリーム買ってきて塗ってあげたり、足の裏カサカサしてるから、手入れしようとしたら流石にやめろって怒られた」

そこでVTRが終わった。


下手に色々な方面に火の粉が飛ばないように私との面白い話で煙に巻こうと思ったんだろう。

大きなため息をつき、窓の外の遠くを眺めた。外はまだ真っ暗で何も見えない。

……こんな誰でも見るような朝の番組で取り上げるんだ。

昨日クラスの子に四年生だから爪は自分で切りましょうって偉そうに言わなきゃよかった。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み