第328話 別れの季節
文字数 1,302文字
私はうんともすんとも言わずにただ窓の外の夜景を見ていた。
さっきよりも大粒の雪が舞っている。
暫くすると涙が頬を伝った。
「それ嬉しいの?困惑してるの?」と彼がおそるおそる聞いてきたので我に返った。
「嬉しいよ、凄く嬉しい。こんなウザいプロポーズされても嬉しい」
「ウザいって言うな」と彼が笑った。
「今日は良く泣く日だな」と近くにあったティッシュで私の涙を拭った。
「兄ちゃんが昔のこと持ち出して、女癖悪いし、借金癖もあるし、自分勝手だから亜紀の相手として最低最悪な男だって酷評してるらしい」
「身内って見る目厳しいからね」
そう言って彼を見つめて微笑んだ。彼も私を見つめ返した。
「俺は何があっても亜紀のずっと愛するよ、だから何があっても最低最悪な俺のこと愛してくれ」
「うん、でも浮気したらすぐに別れるから」
笑顔でそう言うと彼は「こういう時は無条件で頷いて」と顔を顰めた。
私の肩を抱いた。
「いつから一緒に暮らす?」
「来年の四月」「……今年じゃなくて?」
「うん」「何で?普通一ヶ月前に辞めるって言えばいいんじゃない?」
「普通じゃないんだよね、来年の四月の人事は夏から動き出してるって聞いたことがあって、産休の人の代わり見つけるのも本当に大変で辞めるなら四月当初に管理職に言っておく」
「後一年我慢しろって?」「うん、ごめん。それにまた夏に東京の教採受けなくちゃいけないし」
「まだ働くのか?俺は仕事辞めて家にいて欲しいんだけど」
「私だって好きで働いてるから」
「今まで散々頑張ってきたんだから、家でずっとゴロゴロしてればいいだろ?俺は外で働いてくるから亜紀が家のことやってて。結婚するってそういうことじゃないの?女に金出させるの嫌なんだよ」
彼は42歳のおじさんでおまけにいいお家のおぼっちゃんだ。そういう価値観だということはよくわかっている。
「じゃあ生活費とか全部出して、ちゃんと感謝もするし家事もできる限り私がやる。だったら働いててもいいでしょ?」
彼はわざとらしく大きなため息をついた。
「俺は亜紀のしてきた苦労は今更代わってやれない、だからせめて今からは仕事なんかもうやめて家にいて穏やかに過ごして欲しい」
彼が私を思う気持ちが痛いほど伝わってきた。
でもやっぱり辞めたくない、今はいいけれど、この人が将来的に浮気しないという保証はない。
母親のように何にもできずに耐えるしかないという状況にはなりたくない。
それに重ちゃんが病気になったり売れなくなったりした時にどうするの?
けれどこのまま伝えたら確実に彼が気を悪くする。
どう言えばいいのだろうか。
そう考えを巡らせていると玄関のチャイムが鳴った。
「何?怖い、誰いきなり部屋に来るって」と言いながらインターホンの応対をしている。
彼は何故だか焦った様子で玄関に走っていった。
お母さんでも来たのかと思ったけれど、違う女の人の声が玄関から聞こえる。
不審に思って玄関を覗きにいった。
玄関には困った顔をした重ちゃんと胸と下着が見えそうなド派手な女の人が立っていた。
すぐにそれが美咲さんだとわかった。
重ちゃんが物心ついた頃からずっと好きだった人
海外で暮らしていて帰ってくるのを心待ちにしていた人だ。
さっきよりも大粒の雪が舞っている。
暫くすると涙が頬を伝った。
「それ嬉しいの?困惑してるの?」と彼がおそるおそる聞いてきたので我に返った。
「嬉しいよ、凄く嬉しい。こんなウザいプロポーズされても嬉しい」
「ウザいって言うな」と彼が笑った。
「今日は良く泣く日だな」と近くにあったティッシュで私の涙を拭った。
「兄ちゃんが昔のこと持ち出して、女癖悪いし、借金癖もあるし、自分勝手だから亜紀の相手として最低最悪な男だって酷評してるらしい」
「身内って見る目厳しいからね」
そう言って彼を見つめて微笑んだ。彼も私を見つめ返した。
「俺は何があっても亜紀のずっと愛するよ、だから何があっても最低最悪な俺のこと愛してくれ」
「うん、でも浮気したらすぐに別れるから」
笑顔でそう言うと彼は「こういう時は無条件で頷いて」と顔を顰めた。
私の肩を抱いた。
「いつから一緒に暮らす?」
「来年の四月」「……今年じゃなくて?」
「うん」「何で?普通一ヶ月前に辞めるって言えばいいんじゃない?」
「普通じゃないんだよね、来年の四月の人事は夏から動き出してるって聞いたことがあって、産休の人の代わり見つけるのも本当に大変で辞めるなら四月当初に管理職に言っておく」
「後一年我慢しろって?」「うん、ごめん。それにまた夏に東京の教採受けなくちゃいけないし」
「まだ働くのか?俺は仕事辞めて家にいて欲しいんだけど」
「私だって好きで働いてるから」
「今まで散々頑張ってきたんだから、家でずっとゴロゴロしてればいいだろ?俺は外で働いてくるから亜紀が家のことやってて。結婚するってそういうことじゃないの?女に金出させるの嫌なんだよ」
彼は42歳のおじさんでおまけにいいお家のおぼっちゃんだ。そういう価値観だということはよくわかっている。
「じゃあ生活費とか全部出して、ちゃんと感謝もするし家事もできる限り私がやる。だったら働いててもいいでしょ?」
彼はわざとらしく大きなため息をついた。
「俺は亜紀のしてきた苦労は今更代わってやれない、だからせめて今からは仕事なんかもうやめて家にいて穏やかに過ごして欲しい」
彼が私を思う気持ちが痛いほど伝わってきた。
でもやっぱり辞めたくない、今はいいけれど、この人が将来的に浮気しないという保証はない。
母親のように何にもできずに耐えるしかないという状況にはなりたくない。
それに重ちゃんが病気になったり売れなくなったりした時にどうするの?
けれどこのまま伝えたら確実に彼が気を悪くする。
どう言えばいいのだろうか。
そう考えを巡らせていると玄関のチャイムが鳴った。
「何?怖い、誰いきなり部屋に来るって」と言いながらインターホンの応対をしている。
彼は何故だか焦った様子で玄関に走っていった。
お母さんでも来たのかと思ったけれど、違う女の人の声が玄関から聞こえる。
不審に思って玄関を覗きにいった。
玄関には困った顔をした重ちゃんと胸と下着が見えそうなド派手な女の人が立っていた。
すぐにそれが美咲さんだとわかった。
重ちゃんが物心ついた頃からずっと好きだった人
海外で暮らしていて帰ってくるのを心待ちにしていた人だ。